日産京都自動車大学校といえばオートサロンなどでのカスタマイズでも著名だが、実は人知れずあるクルマのレストアをしている。それがS130のフェアレディZだ。豪雨災害で水没してしまったクルマをコツコツとレストアをしている。実は形見だったこのZ。いろいろなものを学生に遺している。
※当記事はフェアレディZが復活途中の2023年にベストカーWebが取材した当時のものです。完成編、そしてその前の記録については下記のリンクからご覧ください
文/写真:ベストカーWeb編集部
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■「生きているクルマ」という実感
2018年の西日本豪雨災害。多くの犠牲者を出した災害だったが、今回のフェアレディZもその被害を受けた1台。オーナーだったYさんは20年以上前に事故で他界、その形見としてご両親が大切にしていた車両が水没してしまったのだ。
そして複数の関係者の手を渡り日産京都自動車大学校にやってきたこのS130だが、歴代の学生の「部活」としてレストア作業が続いている。以前も紹介した際には部品の洗浄が終わり、サビ穴などの復元が完了した状態だった。
クルマ好きなら理解してもらえると思うのだが「生きているクルマ」という感情を持ったことはないだろうか。中古車屋さんで明らかにボロボロでもなんか生きているクルマがあったりする。以前訪問時はまだ部品の寄せ集め状態になっていたS130だが、どこかで「生きている」という感じがした。
■深紅の貴婦人が想いを紡ぐ
今回の訪問ではついに色が入っていた。深紅のフェアレディZはその流麗なボディラインが強調されており、まさに貴婦人という称号にふさわしい姿だった。先生に話を聞く。
「このZはレストア技術の錬成だけでなくいろいろなことを教えてくれます。たとえばデスビキャップなど現代では使われない技術も見れますし、それこそ塗膜の厚みなども違います。その他にもいろいろ学べる生きる教科書なんです」。
内装を見るとわかるがインパネにはCUSCOのステッカーがあったり、Yさんの面影をところどころに感じる。どういう思いでこのステッカーを貼ったのだろう。デフを買って嬉しくて貼ったのかな、もしくは憧れてステッカーだけでも買ったのかな。
クルマ好きだからこそ会ったこともないYさんだけれど、そのステッカーを貼った時の思いは編集担当にもズシリと響いてくるし、このクルマはいつでもYさんが戻ってきても歓迎してくれているとも思った。学生と先生たちは一時的に預かっているという思いが強い。
先生の「いろいろ学べる」という言葉。クルマを愛するひとりとしての想いが詰まっているし、さらに学生がしっかりとその意図をおのずと理解しているのもわかった。
■整備士としての原点を見つめ直す
日産自動車大学校はその名のとおり整備士を養成する専門学校だが、昨今の整備士を取り巻く環境は厳しいものにある。待遇面など社会的に改善をしていくべきこともあるのは隠しようもない事実だ。
命を預かる仕事であるし、ミスは決して許されない仕事でもある整備士。その重責を負う職務は崇高なものだと思う。しかしその原点はクルマを正常な状態に戻して、安全な交通を維持するものだと思う。そしてオーナーが自由に移動できる喜びを提供することだ。
日産自動車大学校の教育の一環としてスタートしたこのフェアレディZのプロジェクトだが、今後学生たちが整備士になり、巣立っていく際に「クルマを直すこと」の意義として思い出してもらえる存在になるだろう。
【追想】
最初にこのZ130を見かけた際は防錆塗装が乗った褪せた赤茶の状態だった。幾度となく車両のレストア作業は目撃してきたが、どうにもこうにもオーナーの形見という話だけに、かっこいいとも素敵とも言えない感情が溢れていた。それは日産自動車大学校も同じだろう。現場として、どのようにYさんのS130を修理するのか。
「綺麗にしたいではなく、Yさんが毎日愛でていた状態のZにしたい」。こう話した学生の言葉に答えは詰まっていた。
日が経つにつれて、自動車専門メディアから地上波ニュースへと報じるメディアも増え、学生そして学校関係者の思いはより深いものに成熟していったように思う。
この崇高なるレストアに関わった皆さんに最大の賛辞を送りたいし、今回の地上波での放送を受けて、フェアレディZとYさんの思いをここまで紡ぐことができたのなら、自動車専門メディアとしてとても光栄に感じる。












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