日本自動車工業会(自工会)は2026年2月18日、佐藤恒治会長(トヨタ自動車代表取締役社長)および各副会長は、自工会が取り組む「新7つの課題」の進捗状況についてのメディア説明会を、都内で開催した。2026年1月22日の第1回に続いてわずか1か月後の第2回となる。説明会では、理事会の大半の時間が「危機感の共有」に費やされたことが明かされるなど、異例のセッションだった。以下、説明会の内容を整理してお届けする。
文:ベストカー編集局長T、写真:日本自動車工業会、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】自工会佐藤恒治会長と自工会メディア説明会配布資料(4枚)画像ギャラリー「灰皿一個」の前例を繰り返すな──危機感の共有に費やした理事会
今回の説明会でまず注目すべきは、理事会の時間の大半が「危機感の共有」に充てられたという事実だ。
佐藤会長は冒頭でこう語った。
「7つの課題を進めていくにあたり、根幹にある危機感を共有しないと、たどり着くゴールが変わってしまう。前回の理事会で鈴木俊宏副会長(スズキ)から事例として挙げられたのですが、あるメーカーとの協業で、部品の共通化を議論したものの、最終的に共通化できたのは灰皿一個だけだった……という話がありました。まさにそれが起きかねないという危機感を改めて持ちました」
この「灰皿の共通化」という言葉は、形だけの協調に陥ることへの強烈なアンチテーゼだ。会議体の名称だけが踊り、実態は何も変わらない── そんな「お作法」の協調では、今の競争環境には到底対応できないという認識を、理事全員が共有した。
具体的な危機感を言語化したのが、毛籠勝弘理事(マツダ)だ。
今回の自工会理事会に先立ち、毛籠理事から会長・副会長宛に手紙が届いたという。メディア説明会でこの手紙の詳細は伏せられたものの、「このままでは日本の自動車メーカーは潰れてしまう」という、まさに檄文と呼ぶにふさわしい手紙だったとのこと。
以下、まず説明会に出席した毛籠理事からの説明を整理して伝える。
たとえば中国はいま、国内市場だけでも年間3000万台規模の需要を持ち、国家が垂直統合型で自動車産業を丸ごと支援している。日本の自動車メーカー群は、それぞれの会社がこの中国メーカーと事実上真正面から戦っている。これは中国だけでなく、世界各国が「国策」として自国の自動車産業を支援して、政治的事案として各種優遇政策を用意している。
「かつて我々の競争相手は、お互い自由な民間企業だけでした。しかしそうした時代はとっくに過ぎています。大きな国家のもとに統合された、独自の産業システムを持つ競争相手が出てきた。このスケール感とスピードに、今のままのプロセスで戦えるのでしょうか」
と毛籠理事は問いかけた。
国際競争の構図が変わった今、個社ごとの最適化を積み上げるだけでは限界がある。産業構造そのものまで踏み込んで、協調すべき領域と競争すべき領域を大胆に組み替えることが必要だ、というのが今回の最大のメッセージだった。
この問題意識は、高市政権が掲げる「重点17領域」とも連動する。「重点17領域」とは、先頃の衆院選で圧勝した高市早苗総理が掲げる、今後、日本の成長分野として政府が着目する産業分野。AI・半導体や造船、量子、バイオ、航空・宇宙などが並ぶ。経済安全保障と国内投資を重視する高市総理肝いりの政策だ。
佐藤会長は「その17領域の中に、実は【自動車】という項目が入っていない」という事実に着目した。
「これは、自動車が1/17に入る・入らないという話ではなく、いまの日本にとって自動車産業こそが17領域すべてにエンゲージすることを期待されているのだと理解しています。特定領域として捉えるのではなく、自動車産業が各領域に対して社会実装や研究開発を通じて貢献することで、国全体の戦略投資を引き出していく」
と語った。
そのうえで、自工会としては「新7つの課題」に取り組む基本方針として、3つの柱を掲げた。第一に、多様なOEMが揃う日本の特性を生かした「多様性を強みとする取り組み」。第二に、産業内だけに閉じず社会的価値を示しながら共感を広げる「ナラティブなアプローチ」。そして第三が「スピード感」だ。決まってから動くのではなく、議論を進めながら並行して実装を進める姿勢が求められている。
自動運転は2030年断面で世界リードを──協調と競争の切り分けが鍵
今回の説明会で、会長・副会長・理事たちが最も熱を込めて説明したのが、「自動運転技術の社会実装加速」だった。
「米国や中国ではすでにタクシーとしての事業が始まっている。日本はいまだに実証レベルにある。この差は我々も強く認識しています」と佐藤会長は説明。問題は技術力の差ではなく、日本では「誰が、何を協調して、どう競争するか」の設計が明確でないことにある。
佐藤会長が例として示したのは、トヨタ・ホンダ・日産それぞれ異なる自動運転アルゴリズムを搭載した車両が同じ道路を走る状況だ。
「競争すべきは、アルゴリズム自体です。ここは合わせる必要はないし、合わせてはいけない。ただし、各社の自動運転車が安全に【混走】できるための通信規格や保険の仕組み、相互認証のルールといった基盤の整備は、協調してやらなければ手が足りない」
三部敏宏副会長(ホンダ)は、技術の急速な進化についてこう述べた。
「かつては写真を学習させて判断するアノテーション方式だったのが、LLMを経て、今はVLAM(ビジョン・ランゲージ・アクション・モデル)の時代に入っている。これだけ速く進化する技術に対して、各社が個別にシステム開発の基盤を作っていたら開発資源がいくらあっても足りない。協調できる基盤部分を共通化し、各社の競争力はその上の”差別化レイヤー”に集中すべきだ」
設楽元文副会長(ヤマハ)は、
「少子高齢化で過疎地域の移動インフラが崩壊しかけている地域に自動運転を実装するのは、今後の日本の重要な社会課題。そこは現状のエコシステムだけでは成り立たない。社会全体の課題解決として捉え、個社を超えた仕組みで取り組まなければならない。これこそ協調でやるべき領域だ。もちろん、各社が競い合ったことで生まれたそれぞれの技術的アドバンテージで、他国のメーカーと向き合うことも重要ではあるが、国内におけるインフラ整備については、一緒に考えていくべきと思う」
とまとめた。
2030年断面での世界リードを目標に掲げ、日本自動車工業会の理事会でも本格的な議論が始まった自動運転。「特区的発想」で複数社の自動運転車両が同時走行できる実証環境をつくり、官民スキームで社会実装を加速させる方向性が共有された。これはガチで期待したい。
物流DX・製造カレンダー改革──業界挙げての「働き方」に踏み込む
「新7つの課題」の第7番目、サプライチェーン全体での競争力向上において、今回とりわけ具体的に動き出したのが「完成車物流の共同プラットフォーム構築」だ。
現状、各社それぞれが組み立て工場から、全国の販売店へクルマ(完成車)を運んでいる。各自動車メーカーはそれぞれ傘下に物流専門会社を持っており、物流の仕組みも、データの形式も、完全にバラバラだ。佐藤会長はこの課題について、「行きはよいよいだが、帰り(回送)に積み荷がない問題」と表現した。

工場位置と販売店の位置、トラックの動線がデータとして連携されれば、積載率を大幅に改善できるはずだが(CO2排出削減にも、ドライバー不足問題にも、運転手の待遇改善にもつながる)、そのためのデータ連携の仕組みをどう作るかが最大のハードルになっている。
「全社が一斉に揃ってからでなく、揃ったところから始める」方針であり、すでにホンダとトヨタの間で部品物流の一部でトライアルが始まっている事例も報告された。完成車物流の共同プラットフォームへの拡大に向け、2026年中に具体的な協議とデータ連携の実証に着手する。
さらに今回、踏み込んだ議論となったのが製造カレンダーの見直し、すなわち「祝日に休む」という当たり前のことを自動車産業として実現できるかという問題だ。
現在の自動車工場では、祝日を生産に充て、代わりにGWや年末年始の長期連休に大規模な設備切り替え工事を行うのが常態化している。その工事は外部のゼネコンとの調整も絡み、簡単には変更できない構造になっている。
ちなみに大手自動車メーカーの事務職や管理部門と仕事をしたことがある人なら分かると思うが、彼らは(工場が動いているので)一般的な年央にある祝日はほとんど休まない。代わりに年末年始やGWにはどかっと休む。
今回議論になったのは、「この慣習があることで、優秀な人材が自動車業界に集まらないのではないか」という点だ。






コメント
コメントの使い方