2026年8月15日夜、タイで開催された第31回アジアクロスカントリーラリー(AXCR2026)が全日程を終えた。チーム三菱ラリーアートの106号車・三菱トライトンを駆る田口勝彦/保井隆宏組が総合優勝。チームにとっては2025年に続く2連覇であり、さらに田口/保井組は、ドライバーとコ・ドライバーがともに日本人という編成のクルーとして、31回を数えるこの大会で史上初めて総合の頂点に立った。三菱トライトン、トヨタ新型ハイラックス、いすゞD-MAXと、三つ巴の大接戦となった6日間・約2000km超を走り抜いての差は、わずか2分25秒。ジャングルも泥も岩場もスコールも越えた先にあったのは、紙一重の勝利と、ひとつの歴史だった。まずは万感の想いを込めて、「おめでとう」と言いたい。
文:ベストカー編集局長T、画像:三菱自動車
【画像ギャラリー】三菱トライトンがAXCR2026を制した6日間を写真で見る(17枚)画像ギャラリー約2000kmの死闘を2分25秒差で制した
2026年8月15日、タイ・ピッサヌロークを拠点に行われた第31回ムサシ・アジアクロスカントリーラリー(AXCR2026)の最終LEG6が終了し、チーム三菱ラリーアートの106号車・三菱トライトンを走らせる田口勝彦/保井隆宏組が、総合優勝を飾った。
6日間で走った距離は約2000km超。ジャングル、泥濘、岩場、水たまり、山岳路、そしてフラットな高速農道までが混在するコースを走り切って、総合2位との差はわずか2分25秒だった。優勝タイムは12時間58分20秒。総合2位はマナ・ポーンシリチャード/キティサック・クリンチャン組(トヨタ・ハイラックス レボ)で13時間00分45秒、総合3位はディサポン・マネーイン/アティキット・シーモンコン組(いすゞD-MAX)で13時間08分22秒。文字どおり、最後の1日まで何が起こるかわからない、勝者が読めない大会だった。
かつて「世界一苛酷」と言われ、「競技というよりもはや冒険」と言われたパリ・ダカールラリー、ここでパジェロを擁して頂点を極めたチーム三菱ラリーアートは、長い雌伏の時を経て近年、国際ラリーに復帰。舞台に選んだのはこのアジアクロスカントリーラリーだった。そんな三菱チームにとっては、チャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組が制した2025年に続く2連覇となる。現体制でのAXCR総合優勝は2022年、2025年、2026年の3回目を数えた。
31回目にして初、日本人ペアの総合優勝
そしてこの優勝には、もうひとつ別格の意味がある。田口/保井組は、ドライバーもコ・ドライバーもともに日本人という編成のクルーとして、31回を数えるAXCRの歴史で初めて総合優勝を果たしたのだ。
ここは大切なところなので詳細を書いておくと、まず日本人ドライバーによる総合優勝そのものには前例がある。青木拓磨選手が2023年大会をトヨタ・フォーチュナーで制している。ただし、そのときのクルーは青木とタイ人コ・ドライバー2名による3人編成だった。つまり今回の田口/保井組の価値は「日本人ドライバー初」ではなく、「日本人だけで組んだクルーとして初」という点にある。31年かけて、ようやくひとつの空白が埋まった。
その青木選手は2026年大会にもトヨタ・フォーチュナーで参戦し、総合10位。参戦20年目、通算17回目の挑戦とされる。歴史をつくった人間が同じ土俵に立っている大会で、次の歴史が生まれた格好である。
LEG3の8秒差、そこから守り切った6日間
大会は2026年8月9日、パタヤのウォーキングストリートでのセレモニアルスタートで幕を開けた。競技は8月10日から15日までの6日間、LEG1からLEG6。パタヤを出てプラーチーンブリー、ナコーンサワン、カンペーンペットを経由し、ピッサヌロークへ至るルートに、四輪43台、二輪36台の計79台が挑んだ。
| 日程/LEG | 区間 | 総走行距離 | SS距離 | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 8月9日 LEG0 | パタヤ | ― | ― | セレモニアルスタート |
| 8月10日 LEG1 | パタヤ→プラーチーンブリー | 375.23km | 206.83km | 大会最長SS。スコール、泥、水たまり |
| 8月11日 LEG2 | プラーチーンブリー→ナコーンサワン | 399.87km | 67.32km | 軍の演習によりSS短縮。泥と岩場 |
| 8月12日 LEG3 | ナコーンサワン発着 | 330.25km | 146.04km | 田口組がSSベスト、総合首位へ |
| 8月13日 LEG4 | ナコーンサワン→カンペーンペット | 331.25km | 181.04km | フラット農道主体。先頭走者の不利 |
| 8月14日 LEG5 | カンペーンペット→ピッサヌローク | 390.92km | 183.60km | 最後の長距離SS。リード5分21秒へ |
| 8月15日 LEG6 | ピッサヌローク発着 | 239.32km | 58.62km | 最短SSだが大会最高標高の山岳路 |
LEG1はいきなり206.83kmという大会最長SS。スコールで川のようになった路面や大きな水たまりが行く手を阻み、上位陣もミスコースで順位を入れ替える波乱となった。田口/保井組は3番手発進。一方、同じチームの小出一登/千葉栄二組は道脇の溝でスタックし、脱出はしたもののタイムアウトで38番手と大きく出遅れる。
LEG2は軍の演習の影響でSSが145.67kmから67.32kmへ短縮された。それでも泥と岩場は容赦なく、田口組は2台をパスしつつ別のライバルにかわされる激しい展開のなかで総合3番手を守った。
流れが変わったのはLEG3だ。田園地帯、迷いやすいジャングル、高速区間、ツイスティ区間が入り混じるSSで、他車がルートを見失う難所を保井のナビゲーションが正確に通過。田口組は今大会初のSSベストを奪い、ついに総合首位に浮上した。ただし、その差は8秒。6日間のクロスカントリーラリーとは思えない、スプリントラリーのような僅差だった。
LEG4は前日のSSベストゆえに、わだちのないコースを切り開く先頭スタート。ダストがない代わりに目印もラインもなく、ミスコースのリスクは高い。それでも田口はほぼ完璧といえる走りでSS4番手にまとめ、リードを3分18秒に拡大した。
最後の長距離SSとなったLEG5では、森林、フラットダート、集落内の狭い道をSS2番手で走破し、リードは5分21秒へ。ここでマナ・ポーンシリチャード組がSSベストを奪って総合2位に上がり、最終日の直接的な脅威として浮上する。
最終日は抜かれても勝つ、成熟のレース運び
最終日のSSは58.62kmと最短。しかし大会最高標高の山岳路と狭い森林地帯で、前夜の雨で残った水たまりがパンクとコースオフの罠になる。総合順位順のスタートにより、田口組は先頭を走ることになった。
ここでの判断が、ベテランらしかった。田口が選んだのは、ミスコースとパンクを避け、蓄えた5分21秒を管理して総合優勝を取りきる走りだ。背後から迫ったマナ組にSS中で先行を許しても、慌てずに自分たちのペースを守り、SS3番手でフィニッシュ。マナ組がSSベストで詰めた末の、2分25秒差での逃げ切りだった。
「SS中に抜かれるのはちょっと納得いかない」。ゴール後の田口はそう笑った。勝ったのに悔しがる。速さで勝ちたいという本音がにじむ一方で、その日にやるべきことは冷静に、確実にやった。田口が信じたのは三菱車・トライトンの信頼性とチームの団結力だった。連覇はこの成熟の上に成り立っている。
| 総合 | クルー | 車両 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 田口勝彦/保井隆宏 | 三菱トライトン | 12時間58分20秒/チーム三菱ラリーアート |
| 2位 | マナ・ポーンシリチャード/キティサック・クリンチャン | トヨタ・ハイラックス レボ | 13時間00分45秒(+2分25秒) |
| 3位 | ディサポン・マネーイン/アティキット・シーモンコン | いすゞD-MAX | 13時間08分22秒 |
| 4位 | 鎌田卓麻/柳川直之 | トヨタ・ハイラックスGRスポーツ | Team TEIN。初参戦で4位 |
| 6位 | 新田正直/染宮弘和 | トヨタ・ハイラックス | ― |
| 8位 | 番場彬/藤田めぐみ | 三菱トライトン | CUSCO Racing |
| 10位 | 青木拓磨/イティポン・シマラック/ソンウット・ダンピパトラクーン | トヨタ・フォーチュナー | 2023年大会の総合優勝者 |
| 11位 | 柳澤宏至/加勢直毅 | 三菱トライトン | CUSCO Racing |
勝因は保井のナビ、ノートラブル、進化したハンドリング
編集部が分析する、三菱の勝因は3つに整理できる。
ひとつは、LEG3で前に出たこと。田口自身も最大の勝因に挙げたのがこれだ。首位に立てば、追う側はリスクを取らざるを得ない。実際、後続にはミスが出た。速さで奪った首位を、リスク配分で守りきったのである。
ふたつめは、保井のナビゲーション。AXCRではミスコースひとつで数分から十数分が消える。LEG3で他車が迷った場所を正確に抜けたことが、SSベストと総合首位を呼び込んだ。どれほど技術があったとしても、ドライバーひとりでは成立しない勝利だった。
3つめはトライトンそのもの。優勝車は6日間をパンクなし、車両トラブルなしで走りきっている。2026年型トライトンは前後の重量バランスを見直し、サスペンションをファインチューニング。四輪の接地性と操縦安定性、旋回性を高めた。エンジンも低中速域のレスポンスを改善している。5月中旬にはタイ・カオヤイ国立公園周辺で7日間、競技区間と同等の距離を走り込む耐久試験を実施していた。



















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