正直いって、予算や人員が潤沢だったとは言えないだろう。ライバルはトヨタといすゞという超強力な面子。それでも三菱には負けるわけにはいかない事情もある。なにしろ今年(2026年)は、あのパジェロが帰ってくる年だ。「三菱車は信頼できる」、これを国内外に刻み込む使命が、チーム三菱にはあった。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ベース車 | 三菱トライトン |
| 規定 | FIAグループT1(改造クロスカントリー車両) |
| エンジン | 4N16型 直列4気筒ターボディーゼル/2439cc |
| 最高出力/最大トルク | 160kW以上/500Nm以上 |
| 過給機 | 三菱重工エンジン&ターボチャージャ製 VGターボチャージャー |
| 変速機 | 106号車・101号車:6速シーケンシャル/118号車:6速AT |
| 駆動方式 | 106号車・101号車:フルタイム4WD/118号車:スーパーセレクト4WD-II |
| サスペンション | 前:ダブルウィッシュボーン独立懸架+コイル/後:4リンクリジッド+コイル |
| ダンパー/デフ | CUSCO製減衰力調整式ツインダンパー/CUSCO製LSD |
| ブレーキ | ENDLESS製モノブロックキャリパー+ベンチレーテッドディスク |
| ホイール/タイヤ | WORK製17インチ/横浜ゴム GEOLANDAR M/T G003(245/75R17) |
| 2026年の主な改良 | 前後重量バランスの最適化、サスペンションのファインチューニング、四輪の接地性・操縦安定性・旋回性の向上、エンジン低中速域のレスポンス改善、AT車のシフトプログラム改良 |
そしてもうひとつ、忘れてはいけないのがチームプレーだ。小出/千葉組は初日のタイムアウトから立て直し、LEG5では総合上位勢に混じるSS8番手を記録。田口車とヨーター車を支えるクイックサポートの役割を担いながら完走した。エースのヨーター車もLEG5のエンジン不調に見舞われながらゴールへたどり着き、チーム3台が全車完走。個人の勝利であると同時に、総合力でもぎとった連覇である。
| 総合 | No. | クルー | 車両 | 6日間の歩み |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 106 | 田口勝彦/保井隆宏 | 三菱トライトン | LEG3で首位、そのまま逃げ切り |
| 27位 | 118 | 小出一登/千葉栄二 | 三菱トライトン(AT仕様) | 初日のタイムアウトから挽回して完走 |
| 36位 | 101 | チャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン | 三菱トライトン | LEG5のエンジン不調で後退も完走 |
関係者コメント全文「勝つことより、勝ち続けること」
チーム三菱ラリーアートの主要メンバーが、ゴール後に語った言葉を全文で紹介する。
増岡浩・チーム三菱ラリーアート総監督
「この大会31回目にして、初めて日本人選手のペアが優勝ということで、同じ日本人として誇りに思うし、うれしいです。今年は最初から僅差の戦いで、誰が勝ってもおかしくないような、そんな大会でした。約2000kmを走って2分25秒差という、本当にギリギリの勝利でした。チームの皆がしっかりチームプレーに徹してくれたおかげでつかんだ勝利、3台完走という結果だと思っています。今年、私が大事にしてきたのは勝つことよりも、勝ち続けること。この連覇で、秋に発売される新型パジェロに華を添えてあげたいという気持ちがすごく強かったので、本当に良かったです。次は3連覇を目指して、また開発に取り組む日々が始まります。応援していただき、ありがとうございました」
田口勝彦・106号車ドライバー/総合優勝
「もちろんうれしいです。でも、SS中に抜かれるのはちょっと納得いかないですね(笑)。次回は抜かれないように、走りで勝ちたいです。クルマもトラブルなく、危ない場面も少なかったと思います。もちろんゆっくり走っているわけではないので、保井選手ともどもいっぱいいっぱいでしたが、勝因は前に出られたことです。追いかけるライバルはリスクを取って攻めなければならないので、そこでミスが出たのではと思います。そんな印象の大会でした。先が見えないコースを進むには、クルマの信頼性が必要ですし、トライトンは今回ハンドリングが良くなったので、良いラインを選んで走ることができました」
保井隆宏・106号車コ・ドライバー/総合優勝
「正直なところ、うれしさよりもホッとした気持ちの方が強いです。トップに立ってからは本当にもうずっと緊張とプレッシャーしかありませんでした。ミスコースひとつでドライバーが一生懸命稼いだタイムを失ってしまうので、細心の注意を払ってナビゲーションをしました。パンクもなく、クルマもノートラブルで走り切れたので、お互いにこのラリーに少しずつ慣れてきたのかなと思います。チームメイトのピーラポン(ソムバットウォン)選手にも色々レクチャーしてもらったことがすごく役立ったと思います」
小出一登・118号車ドライバー/総合27位
「初日にミスをしてしまい、タイムアウトとなってしまいました。本当に落ち込んで自信を失っていたんですが、次の日から着実に走ることを繰り返していくうちに自信も少しずつ取り戻せて、SS5では8番手タイムを出せました。私のトライトンはAT仕様で、シフトプログラムなどの改良でとても乗りやすくなったと思います。普段は社内でインストラクターをやらせてもらっていますが、こういうラリーでは危険回避や判断が重要になってきますので、そういうものの考え方をテストドライバーの育成の時にフィードバックできるかな、と考えています」
チャヤポン・ヨーター・101号車ドライバー/総合36位
「序盤からパンクなど小さなトラブルが続き、5日目には順位を挽回しようと良いペースで走れていたのですが、本来狙っていたレースペースまで速度を上げられなくなってしまい、上位を狙うチャンスを逃してしまいました。今年のトライトンは本当に素晴らしい出来栄えです。前後重量バランスが再調整されたことでコントロール性が大幅に向上し、エンジンパワーも欲しい回転域でしっかり立ち上がってくれ、欠点が見当たらないほど完成度が高いです。あらゆる状況下で意のままにマシンを操ることができる最高の相棒です。私自身の結果は残念ですが、同じチーム三菱ラリーアートの田口選手がチャンピオンを守り抜いてくれたことは本当に素晴らしいですし、チームの誰が勝ってもうれしいです」
祝福の輪、そして今秋の新型パジェロへ
優勝の報が流れると、SNSは祝賀ムードに包まれた。ラリーアート公式Xのリザルト速報は、8月16日朝の確認時点で約6万表示、405リポスト、1136いいね。「三菱自動車 AXCR連覇達成おめでとう。今年は田口選手が優勝素晴らしい」、「チーム三菱ラリーアートAXCR連覇!!!! うれしすぎる!!!!」、「改めてトライトン二連覇おめでとうございます!!マジでいい車だ……」といった声が並び、増岡総監督個人へ祝意を送る投稿も目立った。「三菱はラリーが似合う」「ラリーアートの復活を実感する」といった、ブランドの文脈で受け止める反応も多い(数値は8月16日朝時点、Xで確認できた範囲)。
日本勢の健闘も光った。初参戦の鎌田卓麻/柳川直之組(Team TEIN/トヨタ・ハイラックス)はLEG1でトップに立つ驚きの走りを見せ、総合4位でフィニッシュ。新田正直/染宮弘和組が総合6位に入った。CUSCO Racingのトライトンも番場彬/藤田めぐみ組が総合8位、柳澤宏至/加勢直毅組が総合11位に入り、トライトンという車種そのものの競争力を示している。横浜ゴムモータースポーツ公式は、優勝車を含めGEOLANDAR M/T G003装着車が上位に多数入ったことをアピールした。
三菱にとってAXCRは「走る実験場」だ。一般走行時に比べ路面入力が30倍以上に達することもある環境で、高温多湿、泥濘、岩場、山岳、高速農道という極端な負荷を短期間に浴びる。ここで得た知見は、市販モデル版トライトンの改良にとどまらず、2026年秋に世界初公開が予告されている新型パジェロにも活かされる。増岡総監督が新型パジェロに「華を添えてあげたい」と語ったのは、そういう文脈である。
小出が社内の運転教育インストラクターであり、危険回避や判断の考え方をテストドライバー育成へ還元できると語ったこと。市販車に近い6速ATを積んだ118号車が最後まで走り切ったこと。総合優勝という見出しの裏側で、三菱は次のクルマの材料をきっちり持ち帰っている。サポートカーとして投入されたデリカD:5・4台(うち1台はS-AWC搭載車)もまた、過酷な現場で走り込まれた。
「次は3連覇を目指して、また開発に取り組む日々が始まります」。増岡総監督の言葉どおり、2027年へのカウントダウンはもう始まっている。まずは、31年目にして歴史を書き換えた田口勝彦/保井隆宏の両選手に、そしてチーム三菱ラリーアートに。おめでとう。
そして全国の三菱車オーナーの皆さんにも祝福を。この優勝を支えた「信頼と実績のDNA」は、皆さんの愛車にも息づいています。
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