日本自動車工業会(自工会)は9月17日、都内で定例記者会見を開催。佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長)以下、副会長6名の計7名が登壇し、今年策定した、自工会が取り組む「新7つの課題」のうち、課題⑤「自動運転を前提とした交通システム確立」について、初の本格説明を行った。自動運転はメーカー同士がしのぎを削る技術だが、今回自工会が示したのは開発競争を超えた先にある、「インフラ協調」や「社会基盤づくり」を各社が“競わずに束ねる”新たな枠組みだった。会見終盤、記者からの質問に三部敏宏副会長(本田技研工業社長)が返した「過去は水に流して」というひと言に、この施策に込めた自工会の覚悟がにじんでいた。
文:ベストカー編集局長T、画像:日本自動車工業会、ベストカー編集部(アイキャッチ画像は佐藤恒治自工会会長)
【画像ギャラリー】「過去は水に流して…」自動運転で各メーカーが団結して世界へ挑む!! 自工会「新7つの課題」で日本版共通基盤構築へ(15枚)画像ギャラリー自動運転が「活動開始」に格上げ、全社一枚岩の理由
自工会は2026年、佐藤恒治会長のもとで新体制を発足し、①重要資源・部品の安全保障、②マルチパスウェイの社会実装、③CE(サーキュラーエコノミー)の仕組みづくり、④人材基盤の強化、⑤自動運転を前提とした交通システム確立、⑥自動車関連税制の抜本改革、⑦サプライチェーン全体での競争力向上、の「新7つの課題」を掲げてきた。
本日(9月17日)の会見で配布された進捗表では、「②」、水素の分野で2026年8月28日に福島で水素大動脈構想の準備会が開かれ、9月3日には経産省でモビリティ分野のワーキングが開催されたこと、「④」人材基盤では整備士不足への対応が始動段階に入ったこと、「⑥」税制では同日の理事会で税制要望書の内容が決議されたことが明かされた。
そうした中、ひときわ目を引いたのが赤枠で囲まれた課題⑤「自動運転」だ。
ステータスは「検討開始」や「推進中」を飛び越え、7課題で唯一の「活動開始」。総合政策委員会の松山洋司委員長は「新7つの課題ができる前から委員会を中心に議論を進めてきたが、関係省庁やステークホルダーが非常に多岐にわたるため、トップを巻き込んだ横断的な取り組みとすべく、委員会をまたいで自工会内で複数回議論を重ねてきた」と経緯を説明。その結果として「事故死ゼロ」と「移動の自由」を共通目標に据え、実現へのロードマップと、各社の競争領域・協調領域を初めて明確化できたことを、今回最大の進捗だと位置づけた。

自工会、安全技術・政策委員会の赤石永一委員長も、2025年に交通事故で2547人が命を落としたとする数字を示しながら、「事故死ゼロと移動の自由を高いレベルで両立させることを自工会の最終目標に据え、国・自治体・関連業界を含めた社会全体で推進していく」と語った。
競争はAIの自律性能、協調はインフラと社会基盤
自工会が線引きしたのは、自動運転技術における「競争領域」と「協調領域」だ。競争領域はAI(人工知能)を活用した車両の自律性能向上、つまりE2E(End‑to‑End)型の自動運転開発そのもの。各社がしのぎを削り、市場投入のスピードを競う分野として切り分けられた。ここは引き続き、各社が必死になって開発を続けよう、という話。
一方の協調領域は、3本柱で構成される。ひとつ目は「インフラ協調による安全性向上・交通流円滑化」。車両単体では見えない・間に合わないリスクを、道路インフラや通信ネットワーク、渋滞・工事・気象などの公共情報と連携させた「情報管制プラットフォーム」で補う構想だ。ふたつ目は「社会信頼基盤の確立と実効化」。市場に出た後も事故やインシデントを独立検証し、被害者救済・原因究明・安全改善・社会説明までを閉ループで回し続ける、いわば“認証して終わりにしない”仕組みづくりを指す。三つ目が「技術の市場浸透」で、安全運転を支える「サポカー」の共通認定から、運転をやめた後も移動を支えるサービス基盤の整備までを一気通貫で設計する。

会見では、市街地の右左折や信号認識までシステムが支援する、いわゆる「L2++(レベル2プラスプラス)」の技術的な線引きについても質問が飛んだ。自工会側は「L2++は通称で、現時点で明確な定義は存在しない」としつつ、高速道路に限らず市街地でも自律走行支援を広げることが利用者にとって大きなメリットになるとの考えを示し、安全性能の共通認定制度についても「まだ確定したものではない」としながら検討を進めていく方針を語った。
この会見の冒頭で、佐藤会長は「日本版の自動運転技術には二つの重点がある」と語った。それは「安心・安全な技術であること」、そして「移動の自由をより多くの人へ提供すること」。世界各国で自動運転の実証実験が進むなか、「日本はどうするんだ?」「遅れているんじゃないか?」という声もある。なかには技術を先行させ、まずは社会実装させて、データを集める、という国もある(それはそれで、社会風土、技術風土の違いとして考えるしかない)。
しかし佐藤会長を筆頭にした日本自動車工業会は、「日本流でやっていく」と宣言したわけだ。
2028年に情報管制PFが始動、日本発を世界標準へ
インフラ協調は3段階のロードマップで進む。2026年からのフェーズ1で概念実証(PoC)を行い、有効なユースケースやシステム仕様、事故低減効果を明確化。2027年からのフェーズ2で情報管制プラットフォームを本格構築し、交通全体の管理・最適調整、データガバナンスやセキュリティ基準の運用を開始する。そして2028年からのフェーズ3で、複数地点への実装拡大を目指す。政府側も歩調を合わせており、2026年に自動運転車1万台、2030年に自動運転車の世界シェア25%という目標を掲げているという。

推進体制としては、自工会理事会の直下に新たに「自動運転プロジェクトチーム」を設置。赤石委員長をリーダーに、山本圭司・松山洋司両委員長がサブリーダーを務め、内閣府・デジタル庁・国土交通省・経済産業省・総務省・警察庁といった政府・行政と、ITS Japan、HIDO(道路新産業開発機構)、JARI(日本自動車研究所)、自動車技術会、損害保険料率算出機構といった関連組織の橋渡し役を担う。次世代モビリティ委員会の山本圭司委員長はITS Japan会長も兼務しており、「これまでの自工会とITS Japanの連携は情報交換が中心だったが、今後は両者の連携をさらに深く進化させ、具体的な活動へと発展させたい」と述べ、両団体で共同のITSインフラロードマップを描いていく考えを示した。
質疑応答では、NHKの記者から「海外と比べ周回遅れとも指摘される中での勝ち筋」を問われた佐藤会長が、「手段が目的化しないようにしたい」としたうえで、日本の交通環境は歩行者と車両が近接する特殊性が高く、インフラとの協調によって高度な安全システムを作り上げてきた経緯があるとし、「技術的に負けているとは思っていない」と答えた。
政府の重点政策でも自動運転が重視されていることを追い風に、社会実装のスピードを上げることで社会的な認知を高めていく考えを示した。
地方紙記者からの「どのエリアから実装するか」という質問には、交通量の多さではなく、狭隘道路や自転車・小型モビリティが混在するといった多様な走行環境からデータを集めることを優先し、国指定の重点地域に加えて各社が独自に地方自治体と連携しながら実証地を広げていく方針が語られた。
「過去は水に流して」――本誌記者の質問に見えた本気度
会見の終盤では、記者から「そうはいっても競争と協調は、本当にきっちり分けられるのか? 自動運転技術は、これまで各メーカーでゴリゴリの競争をしてきて、通信方式もデータ仕様もバラバラなのに、今から足並みを揃えられるのか?」という質問があった(というか質問したのは当編集部記者なのだが)。

















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