モーターショーの華といえば、近い未来に発売されるかもしれないと期待を抱かせるスタイリッシュなコンセプトカーだ。
トヨタは東京モーターショーのたびに魅力的な新作を発表し、クルマ好きに夢を与えてきた。古くは「パブリカスポーツ」や「トヨタ2000GT」のプロトタイプが羨望の眼差しを向けられ、市販化を期待させている。そして1969年の第16回ショーにはドリームカーの「トヨタEXシリーズ」を出品し、そのうちの1台のデザインモチーフは「セリカ」に使われた。
コンセプトカーが発表されると、いずれ市販されるだろう、とメディアを含め、多くの人が期待を膨らませる。しかし、メーカーの内部事情で量産化を断念し、闇に葬られるコンセプトカーは少なくない。
ファンとしてはそのたびに残念がり、ため息をつく。発売を期待させたが、ワンオフモデルに終わった魅力的なコンセプトカーを紹介していこう。
文/片岡英明
写真/TOYOTA、編集部
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■近未来のスポーツカー「トヨタ4500GTエクスペリメンタル」(1989年)
年号が「平成」となり、バブルの絶頂期だった1989年秋に、第28回東京モーターショーが開催された。お披露目の舞台は、千葉県千葉市に新設された日本コンベンションセンター(幕張メッセ)である。
税制改革によりビッグカーの時代が到来し、これをバブル景気が後押しした。トヨタはライバルを圧倒する華やかな展示を見せ、新技術の展示にも力が入っている。コンセプトカーで多くの人から注目を集めたのが「トヨタ4500GTエクスペリメンタル」だ。技術の粋を集めて開発された近未来のスポーツカーで、メカニズムの先進性に圧倒された。
個性的なルックスのクーペボディは空気抵抗係数Cd=0.29を達成している。低いノーズのなかに収められているのは1気筒あたり5バルブとし、300ps/39.0kgmを発生する4.5LのV型8気筒DOHCエンジンだ。
これにトランスアクスル方式の6速MTを組み合わせた。最高速度は300km/h以上と発表され、ゼロヨン加速は13秒台の俊足を誇る。専用設計のシャシーとサスペンションにより、ハンドリングの洗練度も高かった。
この4500GTは、事前撮影をトヨタの東富士研究所のテストコースで開催し、なんとジャーナリストを乗せて高速走行も行ったのである。かなり現実味を帯びていたコンセプトカーだったから、みんな発売を期待した。だが、試作だけに終わり、発売されることはなかったのである。
■スモールEV「e-com」(1997年)
1997年の第32回東京モーターショーのトヨタブースは、現実味のある近未来のコンセプトカーの競演にわいた。「ファンクーペ」や「NEW」とともに熱い視線を浴びていたのが都市型シティコミューターの「e-com(イーコム)」だ。これは買い物や通勤など、街中や近距離の移動のために開発した二人乗りのスモールEV(電気自動車)である。キュートなルックスと、シャレた2トーンのボディデザインは、トヨタデザイングループのテクノアートリサーチが手がけた。
ボディサイズは全長2790×全幅1475×全高1605mmと、軽自動車よりも小さい。ホイールベースは1800mmだ。リアにゲートを備えた3ドアのシティコミューターで、2人が並んで座れた。パワートレインは、RAV4-EVに積んでいたものの改良型で、前輪の下に交流同期型モーターを、フロア下にシール型ニッケル水素電池を24個(288V)並べて搭載している。駆動方式はFFだ。
バッテリーへは家庭用の100Vコンセントを使って充電することができた。また、時代に先駆けて急速充電にも対応していたし、減速時の回生ブレーキも採用する。フル充電で走れる距離は100km(10・15モード走行)だった。都市部の渋滞解消やCO2削減に期待されたが、販売されず姿を消してしまったのだ。EVの魅力が再認識されている今になってみると「e-com」の先見性がよくわかる。
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