三菱自動車は、2020年7月27日に電話会議を通じて行った決算説明会で、2021年に「エクリプスクロスPHEV」と、「アウトランダー」の新型を投入することを明言した。
エクリプスクロスの戦うSUVカテゴリーには、マツダ「CX-30」やトヨタ「ヤリスクロス」、日産「キックス」といったライバルがおり、三菱の持つ四駆技術で差別化をしている状態だ。とはいえ数字で見ると、ジャンル全体はものすごく売れているのに、エクリプスクロス単体ではそれほど売れてないイメージとなっている。
三菱内で見ると「デリカD:5」「デリカD:2」に次いで売れているエクリプスクロスなだけに、三菱としてはなんとかテコ入れで追従したいと考えているだろう。
エクリプスクロスは、2021年の改良でフロント意匠の変更と、PHEVを追加。そしてアウトランダーはフルモデルチェンジすることを明かしているが、その内容はどれほどの武器となるのか? そしてライバルに追いつくために何が必要なのか? 自動車評論家の渡辺陽一郎氏が考察していく。
文/渡辺陽一郎
写真/MITSUBISHI、編集部
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■SUVにこだわりを持つ三菱 モデルの古さが販売の枷となる
最近はSUVの人気が高い。小型/普通車の登録台数ランキングを見ると、上位にはトヨタ「ライズ」「RAV4」「ハリアー」、ホンダ「ヴェゼル」などのSUVが並ぶ。
そしてSUVを長年にわたって開発してきたメーカーが三菱だ。今は全般的に設計が古く、「RVR」の発売は2010年、「アウトランダー」は2012年、最も新しい「エクリプスクロス」でも2018年になる。三菱の販売店舗数も、今は600カ所弱に減った。トヨタの約4600カ所(4系列合計)、ホンダの2200カ所、日産の2100カ所に比べると大幅に少ない。
従って売れ行きも落ち込んだ。2020年1~6月の登録台数は、コロナ禍の影響もあり、1カ月平均でエクリプスクロスが400台、アウトランダーは350台にとどまる。


「デリカD:5」はミニバンながらSUVのアウトランダーと同等の走破力を備え、クリーンディーゼルターボも搭載するから950台に達した。しかしそれ以外の車種は、軽自動車の「eKシリーズ」を除くと低調だ。

ただし、今後は流れが変わるかも知れない。三菱は「2020-2022年度中期経営計画」において、2020年度中にエクリプスクロスにPHEV(充電可能なプラグインタイプのハイブリッド)を加えて、2021年度中に次期アウトランダー、2022年度中に次期アウトランダーPHEVを発売すると発表したからだ。
またアセアン地域でも、2023年度以降になると、SUVとミニバンの機能を併せ持つ「エクスパンダー」にハイブリッドを加える。このあとはエクスパンダーやパジェロスポーツをフルモデルチェンジする予定だ。従来型のパジェロは、国内に続いて海外でも販売を終えるが、「パジェロスポーツ」などは刷新させる。つまり三菱は今後もSUVに力を入れ続ける。
■販売店が語る期待値と 復調のために求めたいバリエーションの必要性
気になるのは新型SUVの発売時期で、三菱の販売店では以下のようにコメントした。
「エクリプスクロスは、取りあえず(2020年)11月頃に販売を一度終了する。コロナ禍の影響もあるから確定的ではないが、改めてマイナーチェンジを実施して発売する。この時に新たなモデルとして、エクリプスクロスPHEVも加える予定だ」
「アウトランダーも(2020年)10月頃には終了する。アウトランダーは現行型の登場から7~8年を経過するため、2021年に入ってフルモデルチェンジを受ける」
ユーザーの反響についても尋ねた。
「エクリプスクロスでは、ディーゼルの注目度が高いが、PHEVを求めるお客様もいる。アウトランダーPHEVはボディが少し大きく、運転感覚も安定性と乗り心地を重視した。スポーティな走りを好むお客様には、エクリプスクロスPHEVが合っている」
アウトランダーではPHEVの販売比率が高く、2020年1~6月は78%を占めた。またデリカD:5とエクリプスクロスに搭載されるディーゼルも、大切なセールスポイントになる。従って三菱の特徴的なメカニズムは、PHEV/ディーゼル/先進的な4WDとされ、売れ行きを伸ばすためにもこの3点セットを幅広い車種に用意することが必要だ。
その第1弾がエクリプスクロスのマイナーチェンジになる。エンジンは現在も搭載される1.5Lガソリンターボ、2.2Lクリーンディーゼルターボにプラグインハイブリッドを加えるから、3種類の選択肢が得られる。
このほかエクリプスクロスではフロントマスクのデザインなども変更するが、売れ行きを積極的に伸ばすには、複数の特徴やバリエーションが必要だ。
オフロード感覚を強めたグレードは不可欠だろう。今は都会的な雰囲気のSUVが増えており、この反動で、ユーザーの間にSUVの原点回帰が芽生えている。例えばRAV4やライズは、前輪駆動ベースのシティ派SUVに分類されるが、外観は後輪駆動ベースのオフロードSUV風で販売も好調だ。
エクリプスクロスの場合、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は175mmを確保して悪路走破力も相応に高いが、オフロード感覚と野性味をさらに強めたグレードも欲しい。現行型はスポーティだが、少し背の高いワゴンという感覚でSUV特有のインパクトは弱い。現状のM/G/Gプラスパッケージに、オフロード指向のグレードも加えたい。

■ライバルとの比較で見えてくる価格面の重要性
価格も大切だ。RAV4にもPHVが加わり、今は受注を中断しているものの、強敵であることに変わりはない。SUVスタイルの電気自動車として、日産「アリア」も登場する。今後はモーターを使う競争相手のSUVが増えるので、エクリプスクロスも価格を割安に抑えたい。
アウトランダーのノーマルエンジンとPHEVの価格を4WD・Gプラスパッケージ同士で比べると、PHEV・Gプラスパッケージ(458万2600円)は、ノーマルエンジン車に比べて116万1600円高い。

充電機能のないベーシックなハイブリッドは、ノーマルエンジン車に比べてコンパクトな車種で40万円、ミドルサイズ以上では50~60万円上まわる。従ってアウトランダーPHEVの価格は、ハイブリッドの価格上昇分に加えて、60万円前後がさらに上乗せされている。この価格差をエクリプスクロスに当てはめると、PHEV・Gプラスパッケージが433万5100円になり、RAV4 PHVの4WD・G(469万円)に近付く。
RAV4 PHVは総電力量が18.1kWhの駆動用リチウムイオン電池を搭載して、1回の充電で走れる距離は最長で95kmだ。動力性能も強化した。対する現行アウトランダーPHEVは、13.8kWh・57.6kmにとどまるから、同等の機能をエクリプスクロスPHEVに移植して価格が430万円を超えると割高になって好調に売るのは難しい。

割安感を訴求して売れ行きを伸ばすには、ハイブリッドの価格上昇が40万円、プラグインが30万円として合計約70万円の上乗せだ。そうなるとエクリプスクロスPHEV・4WD・Gプラスパッケージの価格は387万円前後になる。RAV4 PHV・Gに比べて80万円以上安く、プリウスPHV・Aナビパッケージ(404万7000円)と比較しても少し下まわる。
エクリプスクロス全体の価格構成としては、4WDのGプラスパッケージで見ると、1.5Lガソリンターボが317万3500円、2.2Lクリーンディーゼルターボが347万4900円、PHEVが387万円だ。PHEVをここまで安くするのは困難だが、エクリプスクロスを1カ月平均で1500台前後登録するには、野性的なグレードと併せて割安な価格を抑えることも大切になる。
また現行型を見る限り、エクリプスクロスとアウトランダーでは、車両の性格が重複している。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値は、RVR、エクリプスクロス、アウトランダーともにすべて2670mmで共通だ。
RVRは全長を4400mm以内に抑えたものの、ホイールベースは同じだから、似通ったSUVが並んでしまう。エクスパンダーやパジェロスポーツなど、個性的な車種を導入して、新しい需要を生み出すことも考えたい。