オールアルミ製ボディに革新的な3L、90度V6DOHC VTECを搭載し、当時のポルシェやフェラーリに打ち勝とうとした国産初のスーパースポーツ、初代ホンダNSX。
1990年9月13日のデビューからちょうど30周年を迎えた。デビュー時の東京地区の価格は、5速MTが800万3000円(税別)。4速ATが860万3000円(税別)だった。
その後、若干の値上げや上級グレードの追加などにより、約900万~約1000万円級のクルマにはなったわけだが、逆に言えば「せいぜい1000万円程度」ではあった。
だが、生産終了から16年がたった今、初代NSXの中古車相場は爆騰してしまった。好条件な後期型は2000万円以上、NSX-Rに至っては3000万円以上となることも珍しくない。
なぜ、初代NSXはここまで高騰したのか? 中古車事情に詳しい伊達軍曹がレポートする。
文/伊達軍曹
写真/伊達軍曹 フルハウス ホンダ
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埼玉県三郷にあるNSX専門店「フルハウス」に直撃!
いったいなぜ、初代NSXの相場はこんなにも上がってしまったのか? そして、例えば前期型のAT車であれば意外と安く買えたりもするのか?
また純正部品の供給状況はどうなっているのか……、等々についての真相を知るため、取材班は初代NSXに強い埼玉県三郷市の販売店「フルハウス」を直撃した。
――ということでフルハウス店長の星野 仁さん、初代NSXの相場ってなぜこんなに上がっちゃったんですか?
星野店長 高騰の理由は、空冷ポルシェ911の相場が上がってしまった理由と同じなんですよね。
つまり2015年頃から海外のバイヤーが日本国内にある初代NSXを買い漁るようになって、そこからじりじりと、というか延々と、仕入れ相場が上がり続けてる感じなんですよ。
――あるときいきなり爆上げしたというより、「じりじり」という感じだったんですね?
星野店長 ですね。まったく下がる気配がないまま、じりじりと上がり続け、気がついたらこんな相場に……といった感じです。
そして2020年7月後半ぐらいからまたモリモリと上がってしまい、ちょっと困っている状況です。
――それっていわゆる「コロナ禍明けで高級車の需要が回復し……」みたいな話なんですかね?
星野店長 それもあるとは思いますが、どうやら「香港の事情」が絡んでいるようですね。
――香港の事情というと?
星野店長 ご存じのとおり香港は、少し前までは「一国二制度」の下で自由な経済活動が行われていましたが、昨今は中国共産党がさまざまな締め付けを行っていますよね。
その関係で「今後はクルマの輸入が規制されるのでは?」「規制されないまでも、思いっきり高額な関税が課せられるのでは?」みたいな憶測が飛び交ってます。
で、それに基づいて香港系あるいはそのほかの海外系バイヤーが日本の初代NSXを再び爆買いし、そのせいで相場がまた一段上がってしまったのでは、と言われています。真偽の程はわかりませんが、ない話ではないでしょう。
――ううむ。まぁ自由経済というのはいつだって国境を簡単に飛び越えるものですから、仕方ない話ではあるのですが、日本人としては正直たまったものではないですね。
星野店長 そうなんですよね。空冷ポルシェ911の愛好家さんたちも、結果として相場を釣り上げた海外勢に対して怒ってらっしゃるかと思いますが、初代NSXの愛好家さんも同じですよ。
「昔はまあまあ普通の値段で買えたのに、あいつらのせいで“買えない値段”になってしまった!」と。
そして私ども、決して自分たちの意思で相場を上げたわけではございませんので、閉口し、困惑しているというのが正直なところです。
――そんな状況の初代NSXは今、どんな世代やどんなグレードが人気なんですか?
星野店長 人気につきましては、「どの先代のどのグレードもおしなべて人気が高い」というのが事実に近いかと思います。それぞれの世代に、それぞれのファンがいらっしゃいますからね。
――なるほど。
星野店長 ただ、人気ではなく「相場」という意味でしたら、これは間違いなくNA2の後期、すなわちリトラクラブルヘッドライトではなく固定式のヘッドライトになった世代です。
この世代のMTの低走行車は、仕入れ価格も売価も果てしなく高いですし、NSX-Rは、言うまでもありませんが、別格に高いですね。
――人気が高いのはやはりMTだと思うのですが、ATだとけっこう安かったりもするのですか?
星野店長 それはもう間違いなくATのほうが安いですね。断然安いです。
――具体的にはいくらぐらい安いんですか?
星野店長 ケース・バイ・ケースというか、条件によって大きく異なりますので一概には言えないのですが、なかには「ほぼ同条件のMT車より400万円ぐらい安い」というケースもございます。
――よ、400万円安は強烈ですね!
星野店長 ただしこれはあくまで「かなり低走行な超上玉同士」で価格を比べた場合の話です。走行5万〜10万kmぐらいの一般的な条件の物件同士で比べるなら、MT車とAT車の価格差は100万〜200万円ぐらいといったところでしょう。
――100万円とか200万円ぐらいであっても「安い」のは助かるわけですが、でもATの初代NSXって、ぶっちゃけどうなんですか? 走らせてもあまり楽しくなかったりするのでは?
星野店長 そのあたりは、お客様それぞれの考え方次第ですよね。もちろん一番楽しいのはMT車であり、ATの初代NSXは、例えばですが当店の近所のやや混んだ道を普通に試乗するぶんには、「単なるAT車」にしか感じられないと思います。
――ですよね。
星野店長 しかし、これまた例えばですが、当店のすぐ近くにあるランプから首都高に乗り、そして都内や横浜あたりのご自宅までエンジンを高回転域まで回して走れば、やはりNSXですから、それはもう素晴らしく楽しいんですよ。もちろん、MT車ほどではないかもしれませんが。
――なるほど。あと、AT車であろうが見た目は同じですから、とりあえず買って自宅の車庫に置き、それを眺めながらお酒を飲む、なんていうのも、初代NSXの造形が大好きな人であればかなり楽しいでしょうね。
星野店長 そうなんですよ! なかには「納車を1ヵ月待ってほしい」とおっしゃる、ATのNSXを買われたお客様もいました。
どうしてですか? とお尋ねすると、今ちょうど、リビングからガレージを見渡せるように自宅をリフォームしているので、それが完成するまで申し訳ないけど待ってほしいと。お気持ちはよくわかります(笑)。
――もちろん、せっかく初代NSXを買うならMTが一番なんでしょうが、MT車の相場がここまで上がってしまうと、AT車で「そういった楽しみ方」をするのも悪くないのかもしれませんね。
星野店長 そうですね。あるいは比較的安価なご予算でAT車を買って、それをMTに換装する、というのもひとつの手だと思います。
MTへの換装は、リセールにおいてはもちろん減点要素ではあるのですが、初代NSXの場合は、実はそう大きな減点にならないんですよ。その意味で、AT車をMTに換装するのはけっこうお薦めです。
――なるほど。ところで、純正新品パーツの供給ってまだ大丈夫なんですか?
星野店長 まだ出るパーツもありますが、供給が終了となってしまったパーツも増えてますね。
――でもまぁ「部品取り車」があるんでしょうから、そのへんは大丈夫ですよね?
星野店長 いや、初代NSXの場合は、ぐちゃぐちゃになったような事故車でも海外勢がけっこうな値段を出して買っていっちゃいますので、「パーツ取りのための国内在庫」というのは決して多くはないのですよ。
――ううむ。となると、部品供給の点だけはちょっと心配ですね?
星野店長 しかし「同世代の他モデル」と比べれば、初代NSXの部品はまだまだたくさんあるほうですし、ホンダさんが公式に展開している「NSXリフレッシュプラン」もありますから、今すぐどうのこうのというご心配は不要かと存じます。
――あと心配なのは「ボディがオールアルミ製である」ってことですかね? アルミボディって、ぶつけたら板金修理ができないっていうじゃないですか?
星野店長 いや、アルミボディでも板金は基本的にはできますし、フレームまで逝ってしまった場合でも、正規のやり方で修復すれば、十分な強度と精度を復活させることができます。
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