2020年12月25日、日本政府の経済財政諮問会議のもとに設置されている加藤雅信官房長官が議長を務める成長戦略会議は、2020年10月に菅義偉内閣総理大臣が宣言した「2050年カーボンニュートラル」に基づき、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を採択した。
そのなかで気候変動緩和を「成長の機会と捉える時代」になったと位置付け、変革のロードマップを示した。注目したいのは、軽自動車の存在。
政府が示したこのロードマップのなかで、軽自動車も電動化の対象に含まれることが明記された。いまや軽自動車は新車販売の約4割を占め、登録車に比べて維持費が安く、地方では1人1台といえるほどの生活必需品、いわば庶民のアシだ。
しかし、現状では、軽自動車にフルハイブリッド車を採用している自動車メーカーはなく、スズキや日産&三菱(NMKV)が簡易タイプのマイルドハイブリッドを採用している。ホンダ、ダイハツのハイブリッド車はない。
スズキの場合、スペーシア、ハスラー、ワゴンRなどの売れ筋車種に、マイルドハイブリッド(モーター出力は2.6~3.1ps)を搭載、スズキの軽乗用車に占めるマイルドハイブリッド比率は50~60%となっている。
この状況下にあって、スズキはどうするのか? トヨタからフルハイブリッドの供給を受けるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/スズキ
【画像ギャラリー】政府が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」驚愕の中身とは?
窮地に立たされた軽自動車業界
「電動化」の話題がさまざまな形で噴出している。まず政府は「グリーン成長戦略」をまとめ、新車として売られる乗用車については、2035年までにハイブリッドを含む電動車にする方針を打ち出した。東京都は5年早めて、2030年までに新車のすべてを電動化するという。
一方、2030年度燃費基準の実施もある。この基準は2020年度と同様にCAFE(企業別平均燃費方式)に基づく。燃費性能の優れた車種を多く販売すれば、悪いクルマがあっても補えるが、2020年度燃費基準に比べると燃費数値が大幅に引き上げられる。
例えばハスラーの場合、マイルドハイブリッドを搭載するハイブリッドXの車両重量は820kg(数値はすべて2WD)だ。この車両重量に対応する燃費数値は、2020年度燃費基準であればJC08モード燃費で24.5km/Lになる。ハスラーハイブリッドXのJC08モード燃費は30.4km/Lだから、余裕で達成できている。
ところが2030年度燃費基準は大幅に変わる。820kgに相当する数値は、WLTCモード燃費の計測で約28.4km/Lになるからだ。ハスラーハイブリッドXのWLTCモード燃費は25km/Lだから、2030年度燃費基準を達成するには、14%の燃費向上が求められる。
このようにスズキなどのハイブリッド戦略も、メーカーとして焦点を合わせるのは、自治体などの方針ではなく2030年度燃費基準だ。
それにしても、820kgのハスラーがWLTCモード燃費で28km/Lを超えるのは、かなりハードルが高い。軽自動車でWLTCモード燃費が最も優れた車種はアルトのSやLだが、この数値は25.8km/Lだ。
車両重量は650kgと軽いから、2030年度燃費基準を達成するには、WLTCモード燃費を約29km/Lまで向上させねばならない。やはり12%の燃費向上が求められる。
アルトはマイルドハイブリッドを搭載しておらず、燃費向上の余地があるともいえる。そこでNAエンジンも用意するワゴンRのWLTCモード燃費を見ると、マイルドハイブリッドは25.2km/L、ノーマルエンジンは24.4km/Lだ。
単純にいえば、マイルドハイブリッド化によって燃費数値が3%向上した。アルトでは12%の向上が求められるから、マイルドハイブリッドに変更するだけでは追いつかない。そうなると軽自動車が2030年度燃費基準をクリアするには、フルハイブリッドか、フルとマイルドの中間的なシステムが求められる。
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