芸術品の軽自動車をどう生かす? EVに大きく舵を切るスズキの将来とは

芸術品の軽自動車をどう生かす? EVに大きく舵を切るスズキの将来とは

 今や電気自動車のニーズは世界的規模になってきた。欧州を見るとカーボンフリーに向け全力疾走というイメージ。アメリカや中国も着実に動き始めている。

 となると気になるのが新興国。エンジン車のままモータリゼーションを続けるのか、それとも電気自動車へ行くのか? 日本にいて唯一新興国の動き感じるのはスズキの動きだったりする。 

 御存知の通り、スズキはインド市場の半分を占めるほど強く、当然ながらインド政府とのパイプも太い。逆に考えるとインドの今後についてたくさんの情報を持っていると考えていいと思う。

 そんなスズキの動きはどうなっているのか? 驚いたことに電気自動車開発に向け、大きく舵を切ったようなのだ。スズキEVの最新情報をモータージャーナリストの国沢光宏氏が解説する。

文/国沢光宏
写真/スズキ、トヨタ

【画像ギャラリー】ダイハツと軽商用車で協業!! 新たなスタートを切るスズキの中期経営計画


■スズキがいよいよEVに本格参入する

2020年2月、インド・デリーで行われた「オートEXPO」に出展されたマルチ・スズキ・インディア社「コンセプトFUTURO-e」はクーペとSUVを融合させたEVのコンセプトモデル
2020年2月、インド・デリーで行われた「オートEXPO」に出展されたマルチ・スズキ・インディア社「コンセプトFUTURO-e」はクーペとSUVを融合させたEVのコンセプトモデル
鈴木修会長が相談役となり、鈴木俊宏社長がスズキの将来を舵取りしていく
鈴木修会長が相談役となり、鈴木俊宏社長がスズキの将来を舵取りしていく

 最初の動きは7月1日に電気自動車事業の専任組織「EV事業本部」を新設したことである。驚いたのが予算規模。2021~2025年の5年間で1兆円! 全てを電気自動車開発に投入するという。

 この金額、スズキを知る人なら驚く! なんせ通常の開発予算は、4輪車から2輪車、船外機など全て含めて年間1500億円規模。1兆円を5年間で使うとなれば年間2000億円ということになる。電気自動車関連予算でいえば日産と並ぶかもしれない。

 加えて2025年までにインドで電気自動車を販売すると発表した。ちなみにインドでの電気自動車販売はトヨタもスズキと協業することを決めているようだ。つまりトヨタはスズキに任せるということ。

 ここまで読んで「電気自動車といえばキーとなる技術は電池。スズキどうする?」と思うかもしれない。私も様々なルートで取材してみたところ、インドに大規模な電池工場を作ることでインド政府と交渉しているようなのだった。インド政府としても電気自動車用の電池は重要だという認識を持っている。スズキが出てくれば大歓迎だろう。 

 興味深いのはインドの気候。多くの情報源によればリチウムイオン電池を生産すると分析しているが、皆さん電池に詳しくないようだ。いわゆるマンガンやコバルトを正極に使うリチウムイオン電池は高温に弱い。せいぜい50度くらいまで。充放電するとさらに温度上昇する。インドの気候だと使いものにならないだろう。

 スズキが生産しようとしているのは、中国の得意分野である、安価で安全で耐久性高く高温に強いリン酸鉄リチウム電池のようだ。このタイプの電池、すでに日本で販売されているテスラ・モデル3にも採用されており、充放電回数で3000回を超える耐久性を持つ。モデル3の航続距離を250kmとすれば75万kmに耐えるということ。

 渋滞が多く交通事情の悪いインドは1日当たりの走行距離にして100kmあれば十分らしい。100km分の電池搭載量ですら3000回の充放電寿命だと30万km使えることになります。

 また、温度も-30度~+60度くらいなら余裕で使える。逆に考えるとインドで電気自動車を走らせようとしたらリン酸鉄リチウム電池しかないと思う。

 参考までに書いておくと日本はリン酸鉄リチウム電池の開発で大きな遅れを取っており、現時点で本格的な生産をしているメーカーなどない。すべて中国製。スズキがインドで組むのは日本の電池メーカーじゃないようだ。だからこそ5年間で1兆円という巨額の開発予算を計上したのかもしれません。そしてこの工場、予想以上に大きい規模か?

 リン酸鉄リチウム電池は高温の東南アジアで必須になるし、価格も低いため使い勝手がいい。さらに日本でも大きな需要出てきそうな流れとなってきた。

マルチ・スズキ・インディア社が開発したワゴンR EV
マルチ・スズキ・インディア社が開発したワゴンR EV

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