2021年8月28日、トヨタは中国市場へのシエナ投入を発表した。これまで北米でのみ生産されてきたシエナが、中国でも生産が行われ、販売スタートとなる。
アルファード、クラウンヴェルファイア、そしてレクサスLMと、豪華すぎるトヨタMPV(Multi Purpose Vehicle)が並ぶ中国市場に、シエナが追加される。世界中どこを探しても、これほどまでにトヨタの上級MPVが揃っている国はない。
中国市場にシエナが導入された背景を紐解きながら、日本への導入の可能性を考えていく。
文/佐々木 亘、写真/TOYOTA、LEXUS
【画像ギャラリー】中国でしか揃わない! トヨタの上級ミニバンをギャラリーでチェック(20枚)画像ギャラリー7人乗りだけで勝負に挑む中国のシエナ
中国市場に導入されるシエナは、2020年5月に北米市場でデビューした、4代目シエナとほとんど同じだ。
GA-Kプラットフォームを採用し、パワートレインには2.5Lダイナミックフォースエンジンにハイブリッド技術を組み合わせる。中国を走るハイブリッド車の10台のうち7台はトヨタのクルマであり、トヨタのハイブリッドに対する中国市場の信頼と人気は高い。
ボディサイズは全長5180mm×全幅1995mm×全高1765mm(一部仕様は1786mm)で北米仕様と同様だが、乗車定員のバリエーションが少なくなる。北米仕様には乗車定員が7名・8名と2種類あるが、中国仕様のシエナは7人乗りだけとなるようだ。
シエナの7人乗りには、2列目のキャプテンシートを635mmスライドできるスーパーロングスライド機構が備わる。多人数乗車よりも、快適な3~4名乗車を目的にするユーザーが多い中国市場の動向を、よく見定めた展開と言えそうだ。
暗黙のルールを破り、中国市場へ導入された背景は?
中国は元来MPVの需要が大きい国だ。2016年にはMPVだけで250万台の新車販売があり、SUVにつぐ人気カテゴリーである。
またMPVは、中国国内の自動車ブランドが得意とするカテゴリーのひとつだ。2018年には、中国の自動車ブランド5社から、新型MPVがほぼ同時期に発売され、中国の機関紙である人民日報が大きく取り上げている。この記事でMPVは、SUVと比較して乗り心地が良く、家族旅行に適しているため、中国国内の消費者から大きな注目を集めるカテゴリーだと紹介されていた。
世界中のメーカーも中国市場へMPVを投入していく。トヨタもレクサスLM、クラウンヴェルファイアと立て続けに高級MPVの販売をスタートさせた。
これまで、アルファード・ヴェルファイアとシエナが同一国で販売されているという例はほとんど無く、この両車は一緒には売らないという暗黙のルールが存在したようにも思える。しかし、中国へのシエナ導入は、この暗黙のルールを破ったとしても、価値があるものだったに違いない。
シエナの中国導入を決めた広汽トヨタ(トヨタと広州汽車の合弁会社)に対し、トヨタ本社や北米トヨタから、販売ルールに関して何かしらの意見が出た可能性はある。しかし、年間9,000万台といわれる世界の新車販売台数のうち、25%以上の2,500万台を販売する世界一の自動車市場「中国」の意向は無視できなかっただろう。
前例のない特別待遇が行われた結果、中国に世界随一のMPVマーケットが完成したのである。
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