トヨタ系列のディーラーで問題となった不正車検問題。最短45分から1時間で終わらせるあまり、法定で決められた検査を省いていたり、検査のやり方が不適切とされ、不正車検が行われたクルマは約6000台にも上るという。
そこで、こうした不正車検問題が起きたスピード車検は危険なのか? 改めて、ディーラー車検と整備工場の整備の違い、さらにユーザー代行車検の違いはどこにあるのか?
そしてディーラー整備士の給与がなぜ低いのか、改善されないのかも踏み込んでいただきたいと思う。
文/高根英幸、写真/Adobe Stock(garage38@Adobe Stock)
■人手が不足しているのにスピード車検というサービスが歪みを生んだ
トヨタとレクサスディーラーで発覚した不正車検は、スピード車検というサービスの歪みを露見させた。
24ヵ月点検と書類上の手続きを45分(ディーラーによって所要時間は異なるようだが)で行なうことに、そもそも無理があるうえに、クルマの機能や構造は複雑化・高度化している。メカニックも不足している上に、1日にこなさなければならない台数もある。
時間に追われノルマに追われ、ヘッドライトの照度や光軸などの調整など細かい作業はいつしか後回しになり、そのうち見過ごされるようになってしまった、というのが不正車検へとつながった構図だろう。
ディーラーのメカニックという、立場は保証されつつも報酬は少ないという仕事は、世間から見れば決して人気の高い職業ではない。
クルマが好きだから、仕事がキツくて給料が安くても、他の仕事よりも好きだから選んでいる人が多いようだ。しかしディーラーは収益性を確保するため作業の効率化を進める一方だから、現場のメカニックの負担は大きくなる一方だ。
最近のディーラーにおけるメンテナンスは専用の診断機を接続して、車載のECUと通信することで故障の履歴や不良箇所の診断を行ない、メカニックはその結果に応じて部品交換をするという流れになっている。
つまり作業の効率化とは、誰が行っても(基本的な知識と能力、資格を持つメカニックであることが前提だ)同じ修理ができるように作業工程を基準化することなのである。
複雑化、電子制御化して故障が目で見ただけでは分からない故障が増えると、修理自体もシステム化しなければ対応できないのは当然のことだ。さらに交換部品の在庫もコストダウンのため、アッセンブリー単位で管理されるようになった。
最近はモジュール構造が進んで、そっくり交換するだけの修理になり、修理代金も高騰化している。
作業工賃も上昇しているものの、逆にメカニック個人の能力は軽視される傾向が強くなり、忙しいのに待遇はあまり改善しない、という悲しい図式が出来上がる。そんな職業に人が集まらないのは当然のことだ。
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