【2021年を振り返る】未来のためにあえて問う 東京2020選手村 自動運転バスの接触事故はなぜ起こったのか

【2021年を振り返る】未来のためにあえて問う 東京2020選手村 自動運転バスの接触事故はなぜ起こったのか

 蒸し返してしまうようで若干気がひけるが、これからの自動車産業についてどうしても必要なことなので、あえてここでもう一度とりあげてみたい。

 今年の大きなトピックと言えば、日本中を大いに沸かせた東京オリンピック/パラリンピック。その選手村で運行されていた自動運転車eパレットが、パラリンピックに出場を予定していた柔道選手と接触し、選手は大事をとって出場を見合わせたというニュースがあった。

 開発元のトヨタが矢面に立たされることとなったが、ここでもう一度要点を整理してみたい。

※本稿は2021年9月のものです
文/国沢光宏、写真/TOYOTA、AdobeStock ほか
初出:『ベストカー』2021年10月10日号「クルマの達人になる」より

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■改めて検証 選手村での自動運転車接触事故

条件としては稀な事象が幾重にも重なって起きた今回の事故。つくづく自動運転は難しいと感じた(metamorworks@Adobe Stock)
条件としては稀な事象が幾重にも重なって起きた今回の事故。つくづく自動運転は難しいと感じた(metamorworks@Adobe Stock)

 東京オリンピック/パラリピックの選手村で運行されていた自動運転車eパレットが、パラリンピックに出場を予定していた柔道選手と接触。ニュースになった。

 詳しい状況を取材すると、改めて自動運転の難しさを実感させられた。

 概要を書くと、eパレットは周囲に歩行者がたくさんいるなかで運行されていた。歩行者天国を走っているようなもの。もちろん交差点や横断歩道に信号なし。したがって歩行者を検知すると停止するeパレットは、自動運転だと事実上動けない。

 仕方なく本来なら安全確保のため乗っている監視役のオペレーターが、自分の判断で自動運転をオーバーライドして発進させている状況だった。そんな環境のなか、接触は起きている。いつもように横断歩道のある交差点に差しかかるや、人を感知して自動停止。

 本来ならここで安全を確保するため歩道に配置されていた警備員が歩行者の通行を止め、eパレットの安全を確保することになっていたという。接触があった時も同様の誘導をしていたようだ。だが、eパレット通過中にも関わらず道路を渡ろうとした人がおり接触。転倒してしまった。

 なぜ目の前に車両があるのにぶつかっていったかといえば、視覚に障害のあるパラリンピック選手だったからだ。

視覚障害者は全て白状を持っていると思いがちだが、障害の程度は人それぞれで、白状を持っていない視覚障害者もいる(Halfpoint@Adobe Stock)
視覚障害者は全て白状を持っていると思いがちだが、障害の程度は人それぞれで、白状を持っていない視覚障害者もいる(Halfpoint@Adobe Stock)

 ちなみに視覚に障害がある方は道交法14条で白杖の使用を義務付けられている。オペレーターも警備員も白杖を見たら対応は変わっていたかもしれない。どうして白杖を持っていなかったのかといえば、全盲の方ではなく視野狭窄という視覚障害だったためです。

 視野狭窄は「周囲の状況が把握できず歩行が困難」と言われているけれど、おそらく注意すれば外出できるということだったんだと思う。

 結果的にオペレーターも警備員も歩行者はeパレットを見ており、渡らないようにしてくださいという指示を認識していると思っていたが、歩行者は気がついていなかったということになる。この接触で皆さん辛い目にあったと思う。もちろん一番残念だったのは、長い間練習してきたのに戦えなかった選手だ。

 この点、豊田章男社長も真っ先に選手のことを気遣ってます。とはいえ、オペレーターは「横断歩道に歩行者がいるのになぜ発進させたんだ。道交法違反だろ!」、警備員も「何のためにそこにいたんだ!」と批判された。

 eパレットの開発チームだって「トヨタの自動運転技術はやっぱり遅れている!」と批判されている。でも本当に予想できなかったと思う。今回の接触事故、自動運転の弱点をずっと検証している私からしても想定外でした。

 昨年行われたeパレットの取材会の際に「競技終わって解放され酔っ払った選手が面白がって横から突進してきたらどうなるか?」と聞いたら「ぶつかると思います。ただ映像など記録を残していますから、こちら側のミスではないと証明できます」との答え。私自身、悪意のない接触が発生することもあると反省した。

 ただ、これで自動運転に対し後ろ向きになったら欧米中の技術競争から遅れることになる。教訓として捉え、より安全な自動運転を考えていくべきだと思う。

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