マツダ初のディーゼルハイブリッドが発売される。――そんなニュースが報じられたのは9月上旬のことだった。日経新聞が「マツダ、初のディーゼルHV 電動化で燃費2割向上」(9月12日付け)と報じたほか、多数メディアから「2020年代に市販される」などの情報が一斉に伝えられた。
が、これらのニュースを見ても、肝心のディーゼルHVの“中身”については触れられていない。ディーゼルHV発売の報は事実なのか? 実はこの計画、突然降って沸いた話ではない。
マツダから得られた回答とともに、そのメカニズムの核心に迫った。
文:鈴木直也、編集部
写真:編集部、MAZDA
マツダが描くディーゼルHV計画の全容
まずは、ディーゼルHV発売の真偽のほどをマツダ広報部に問い合わせると、「将来の計画については適切な時期に発表します」と、ごく当たり前の回答が。
ただし、この回答には“続き”がある。
「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030で(電動化については)書いていますので……」
このサスティナブル“Zoom-Zoom”宣言2030とは、2017年8月にマツダが発表した、いわば長期計画のようなもの。
改めてこの資料を確認すると、「次世代技術コミュニケーション&導入プラン」の電動化の項で、2019年以降にマイルドHEVを市場投入されることがハッキリと書かれている。
報道では単に“ディーゼルHV”という言葉が使われたが、このHVの正体はマイルドハイブリッドというワケだ。
さて、現時点で得られた情報を整理すると、大きなポイントは以下の3つだ。
・ディーゼルHVの市場投入は間違いない(時期に関しては2020年代と開きあり)
・システムはスズキなどが展開するマイルドハイブリッドとなる(自社開発)
・まずはCX-5に搭載される可能性が高い
では、マツダはなぜ、あえてトヨタのTHS IIとは異なる、“簡易的なハイブリッド”を投入するのか? そして具体的なメカニズムはどうなるのか? ここからは自動車の技術に造詣が深い、ジャーナリストの鈴木直也氏が解説する。
「フルHVではトヨタに勝てない」マツダがマイルドHVを選ぶ理由
マツダは10年以上前から、優先順位として内燃機関の効率アップがまず重要だが、将来的には電動化技術を導入して双方のメリットを活かしつつ、長期的には電動化パワートレーン主体のラインナップに移行するという未来図を描いている。
ある意味、機が熟したので予定の戦略を発動したのが、今回のディーゼルハイブリッド投入といえる。
では「なぜ今?」ということだが、これは48Vマイルドハイブリッドシステム(以下48Vシステム)を採用するための周辺環境が整ったから、と考えられる。
よく知られているとおり、内燃機関はどんなに熱効率アップを図っても、全域で同じように効率はよくならない。熱効率のいい「燃費の目玉」といわれる領域は、一般的には3000回転前後の狭いゾーンに集中する。効率のピークは高くできても全域をピーク並みにはできないのだ。
だから、クルマ全体のエネルギー効率を高めるには、電動化技術が不可欠なのだが、トヨタが採用しているTHS-IIのような複雑高度なシスムを採用しようとすると、お金も時間もかかるばかりでなかなか上手くいかない。
これまで世界中の自動車メーカーがトヨタのTHS-IIに挑戦したが、なんとか勝負になっているのはホンダだけ。多くはトヨタ以下のハイブリッドをトヨタ以上のコストで作る結果に終わっている。
マツダはトヨタと技術提携してプリウスと同じTHS-IIを搭載したアクセラを市販化した経験を持っている。
アクセラ ハイブリッドはマツダ製のエンジンと組み合わせることで、プリウスとはひと味違うクルマに仕上がったが、結果として販売実績はサッパリ。
この時にハイブリッドではトヨタと同じ土俵で勝負してもまったく勝ち目がないことを学んだのではないかと思う。
この経験があるから、マツダのディーゼルハイブリッドは間違いなく48Vシステムで開発されているはずだ。
もともと、48Vシステムは欧州系サプライヤー主導で開発されたものだが、ハイブリッドでどうしてもトヨタに勝てない欧州勢の苦しい事情が反映されている。
複雑高価なハイブリッドはコリゴリだが、低コストで既存車種に展開しやすいハイブリッドが欲しいというのが彼らのニーズ。
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