ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第九回目となる今回は日産とルノーとのアライアンスの行方について。日産は2022年6月30日に、これまで非公開とされてきたアライアンスの内容を一部公開した。そこから読み解けることとは?
※本稿は2022年7月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/NISSAN
初出:『ベストカー』2022年8月26日号
■改訂アライアンス基本契約「RAMA(ラマ)」の中身とは?
日産自動車は2022年6月に開かれた株主総会の直後、メディアから注目を集めていたルノーとの改訂アライアンス基本契約「RAMA(ラマ)」(2015年)の要旨を初めて公開しました。
その内容とは、日産が承認していない決議をルノーは提出できない。もし、逆らった場合は、日産はルノー株を買い増して反撃に転じることが可能というものでした。
日産経営の独立性を防衛するために、アライアンスを攻撃する最終兵器のような存在です。
要するに、ルノーは日産を支配できる43%の株式を保有しながらも、日産ガバナンスへの不干渉を約束する異常な契約であったのです。
この契約を締結したのが、当時、日産とルノーの両方のCEOを務めていたゴーン元会長です。
2015年当時、国家資本主義(国家が資本主義に介入し管理)を強めるオランド前大統領が進めた「フロランジュ法」から日産経営の独立性を守ることが目的でした。
フロランジュ法とは、長期的に株式を保有する株主(=フランス政府)の議決権が2倍になる権利を認めた国内法です。
フランス政府がルノーの経営に介入し、子会社である日産の経営にも関与することには、日産のみならず日本政府も強く警戒と疑念を表したのです。
■「ゴーン後」とルノーの戦略転換
ゴーン元会長はRAMAを再修正し、フランス政府を説得、日産の合意も取り付けました。
フランス政府が尋常ではない契約を飲んだ背景にはゴーンとフランス政府に密約があったのかもしれません。
ゴーンにすれば日産からの高額報酬を継続することは悪い話ではなかったし、機が熟せば自らの手で経営統合すればよいと考えた節があります。
事実、ゴーンは2018年に両社の合併を強行に実施しようとします。しかし、不覚にも金融証券取引法で逮捕され、ルノー、日産両方の経営から追われたのです。
そして、ガバナンス不干渉を認めた契約書だけが残ったというわけです。
ルノー日産のアライアンスは「対等な精神」で運用されてきたのではなく、実際には2015年以降「対等なガバナンス」で運用されてきたのです。
対等出資の合弁会社がうまく進まないことと同じで、ルノー日産のアライアンスは世界の競合会社と比較して活力が日に日に弱体化していきます。
元々、ルノーはグローバル展開を進め「座して死を待つより打って出る」という戦略で瀕死状態の日産へ巨額の出資を実施しました。
しかし、戦略を全体で一元化することが無理となった今、戦略を転換しなければならなくなったのです。
2021年にルノーに移籍してきたルカ・デメオ新CEOは、日産の経営統合にこだわらず、欧州中心に事業を集中させる新戦略を検討してきたようです。
この戦略転換が、話題になっている電気自動車専門会社(BEV新会社)の設立と日産株の売却なのです。
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