2022年4月、警察による「信号のない横断歩道でクルマが止まってくれたら、渡り終わった後に「ありがとうございます」と、ドライバーさんに向かってお辞儀をしよう」という小学生に対する交通教育が、反響をよんだ。
「コミュニケーションで悲惨な事故を防ぐことができれば」という理由からの指導だったそうだが、ご存じのとおり、歩行者のいる横断歩道においてクルマが停止しなければならないのは、道路交通法第38条において規定されているドライバーの義務。「止まって当然なのだから感謝する必要はない」とする人がいる一方、「日本らしくていい」という声や、「コミュニケーションは必要」とする声も相次いだ。
横断歩道に関しては、「横断歩道で止まって道を(歩行者へ)譲ったのに頭を下げない、どういう教育をしているんだ」と、怒りをあらわにする人もいるとのこと。はたして、横断歩道でクルマが道を譲ってくれたとき、お辞儀は必要だろうか。
文:エムスリープロダクション
アイキャッチ写真:Adobe Stock_Dieter Hawlan
写真:Adobe Stock、写真AC
「勘違い」をよぶ可能性も
JAFによると、信号機のない横断歩道におけるクルマの一時停止率は、調査を開始した2016年は7.6%だったのに対し、2021年は30.6%と、上昇してきてはいるものの、依然として7割のクルマが止まっていないという結果となっている。横断歩道を横断中の事故は後を絶たず、2017年から2021年までの5年間に発生したクルマと歩行者の事故のうち、死亡事故となったケースの3割は、横断歩道を横断中の事故だったそう。
こうした状況を考えれば、事故に遭う確率を少しでも減らすため、小学生の側からできる対策として、「ドライバーとコミュニケーションをとる」という発想自体は素晴らしいと思う。挨拶を交わすことは、円滑な交通を確保するためにも必要であり、アイコンタクトをとることで、ドライバーも歩行者も安全意識を高めることができる。
ただ、横断歩道で一時停止したクルマに「ありがとうございます」と言ってお辞儀をする、と、警察によって教えられた小学生たちは、クルマが善意で止まってくれたと勘違いしてしまう、ということも考えられる。
海外では、横断歩道の近くに歩行者がいると、クルマが一時停止するというのが徹底されている。それはやはり「歩行者がいたらクルマは止めるべき」という教育が、免許取得前から徹底されているからであろう。そう考えると、法律を守っただけのドライバーに対して「ありがとうございます」といってお辞儀をするのは、将来の日本をつくる小学生たちへの教育として適切かというと、そうとは言い切れない気もする。
「まったく必要ない」とも言い切れない気が…
しかしだからといって、「止まって当然だから、お礼をいう必要などない」というのも、日本人らしさが乏しく、いささかさみしい。
公益社団法人「ACジャパン」の2011年のテレビCMで、押しボタン式信号が赤になったことでイライラしていたドライバーたちが、横断歩道を渡り終わった歩行者の少年によるお辞儀で、思わずにっこりする、というものがあった。警察が指導してお辞儀を強制するのは違うかも知れないが、「まったく必要ない」としてしまうのも違う気がする。
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