現在も進行中のロシア・ウクライナ戦争。今年4月に、ロシア黒海艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「モスクワ」が、わずか2発のミサイルにより沈没させられたことが話題になった。モスクワは、1983年就役のかなり古い艦ではあるが、全長186m、排水量1万トン以上の決して「小さくない」艦艇である。そんな艦艇を簡単に沈めてしまうミサイルとは、どのようなものだろうか。
文・イラスト/坂本 明、写真/ウクライナ国防省、航空自衛隊
■対艦ミサイル「ネプチューン」とは?
ロシア政府は「モスクワ」の沈没理由をミサイル攻撃によるものとは未だ認めていないが、使用されたミサイルは、ウクライナ国産の対艦ミサイル「ネプチューン」と見られる。2014年頃から開発を開始、2021年からウクライナ軍に配備されている(メイン写真:2019年の発射試験で、発射されたネプチューン対艦ミサイル)。
ネプチューンは地上から海上の目標艦艇に向かって発射される地対艦ミサイルだ。その構成は、USPU-360発射機搭載車両、TZM-360輸送・再装填車両、RPC-360指揮統制車両、特殊輸送車両からなり、RK-360MCネプチューン沿岸防衛システムと呼ばれる。射程など詳しいデータは不明だが、ミサイルは900km/hほどの速度で飛翔し、最大射程は280km程度といわれている。
システムの開発費用は4000万ドル(約53億円)と非常に安く、システム1式当たりは30億円程度。1つのシステムは発射機搭載車両(発射機4発)と輸送・再装填車両が3セットなので、最低12発のミサイルを発射できる。このミサイル2発で本当にモスクワを沈没させることができたのなら非常にコストパフォーマンスがいい。なにしろモスクワの建造費は約7億5000万ドル(約1000億円)と言われているからだ。
ちなみに陸上自衛隊が運用する88式地対艦誘導弾は、システム1式で100億円程度といわれる。諸事情が異なるので一概には言えないが、ネプチューンは高度な兵器のわりに非常に安いといえる。
ところで洋上を航行する艦艇を攻撃するのが対艦ミサイルだが、ひとくちに対艦ミサイルといっても、航空機から発射される空中発射型(ASM:Air to Ship Missile、空対艦ミサイル)、艦艇(潜水艦も含む)から発射される艦上発射型(SSM:Ship to Ship Missile、艦対艦ミサイル)、地上の固定基地または車両から発射される地上発射型(SSM:Surface to Ship Missile/GSM:Ground to Ship Missile、地対艦ミサイル)がある。運用するプラットフォームは異なっても、基本的にミサイルに求められる能力は共通している。
また対艦ミサイルは航空機のように翼と推進装置を持ち、長距離を自立飛行して目標を攻撃できる巡航ミサイルと大気圏内外を弾道飛翔する弾道ミサイルに分類することもできる。
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