寿命は100万kmってマジ? トヨタの新型電池が日本を救う!! 2027年登場バイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン電池って何よ?

寿命は100万kmってマジ? トヨタの新型電池が日本を救う!! 2027年登場バイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン電池って何よ?

 先般のトヨタ新技術発表会で突如として発表されたバイポーラ構造のリン酸鉄リチウム電池。bZ4Xの三元系リチウムイオン電池より2割航続距離を伸ばし、コスト4割減になるという。トヨタが2027年に出すというこの電池の何がどう凄いのかを詳しく分析した。

文/国沢光宏、写真/トヨタ、ベストカーWeb編集部

■リン酸鉄リチウムイオン電池の登場がEVを変える?

2023年6月8日、トヨタ東富士研究所での記者やメディア責任者を集めた先行技術説明会(トヨタ・テクニカルワークショップ2023)で発言する中嶋裕樹副社長CTO
2023年6月8日、トヨタ東富士研究所での記者やメディア責任者を集めた先行技術説明会(トヨタ・テクニカルワークショップ2023)で発言する中嶋裕樹副社長CTO

 多くのメディアは「トヨタが全固体電池を搭載した電気自動車を2027年に出す」というニュースを取り上げている。確かに全固体電池は次世代の主力になる可能性を持つ電池ながら、当面高価だし、性能をフルに活かそうとすればレクサスのSUVやスポーツモデルくらいに採用できる程度。そもそも急速充電器の性能を10倍くらいに上げないと大量の電力を供給できないですから。

 電気自動車の専門筋からすれば、今回トヨタが発表した電気自動車戦略のなかで一番の「こいつぁ凄いね!」はバイポーラ型のリン酸鉄リチウムイオン電池を2027年あたりに出すというもの。

 これ、大半のメディアは凄さに気づいていない。リン酸鉄リチウムイオン電池をずっと追いかけている私からすれば、革命的な進化であり、電気自動車が普及するための決定的な電池になると思っている。

 この電池が実用化されたら、カローラサイズの電気自動車に400km程度の航続距離を持たせたうえ、今のハイブリッド車と大差のない価格設定にできるだろう。加えて寿命は100万kmを優に超えるため、電気自動車として使うだけでなく、家庭用の蓄電池として使ってもクルマの寿命を縮めることはない。

 そして燃えないし、急速充電性能だって今の三元系リチウムイオン電池より20%以上向上させられることだろう。

■バイポーラ型ならbZ4Xの航続距離を2割伸ばす!

従来型のモノポーラ構造(左)とバイポーラ構造(右)のリン酸鉄リチウムイオン電池
従来型のモノポーラ構造(左)とバイポーラ構造(右)のリン酸鉄リチウムイオン電池

 具体的な紹介をしてみたい。まず、電池としての性能だけれど、現在日本製電気自動車の主流になっているbZ4Xなどに搭載される三元系リチウムイオン電池と比べ、航続距離を20%伸ばせるという。つまり、三元系リチウムイオン電池より20%も大きなエネルギーを貯められるワケ。電池に詳しい人ならわかるとおり、今までリン酸鉄リチウムの弱点は性能の低さだった。

 実際、リン酸鉄リチウムイオン電池はエネルギー密度が小さかったため、電気自動車に向かないとされていたほど。具体的に説明すると、黎明期のリン酸鉄リチウム電池は、三元系リチウムイオン電池なら50kWh搭載できるスペースに30kWh程度しか搭載できなかった。

 その後、中国勢がリン酸リチウムイオン電池の「熱に強い」という特性を活かし、密集して搭載することで前出の条件なら40kWh程度を搭載できるようになっている。

 このタイプの電池をBYDは「ブレードバッテリー」と呼び、ATTO3などに搭載。同じ構造の電池をテスラも採用している。

BYDがATTO3に搭載している自社製リン酸鉄リチウムイオン電池を使ったブレードバッテリー
BYDがATTO3に搭載している自社製リン酸鉄リチウムイオン電池を使ったブレードバッテリー

 バッテリー密度さえ高くなれば、リン酸鉄リチウム電池は夢のような強さを持つ。三元系リチウムイオン電池だと充放電回数800回ほどで容量が80%前後になってしまうが、リン酸鉄リチウムイオン電池なら3000回以上!

  フル充電で300km走れる電気自動車の場合、三元系リチウムイオン電池だと24万kmで航続距離は240kmになってしまうが、リン酸鉄リチウムイオン電池であれば90万km走って240km。

 さらに正極の素材がリン酸鉄のため、コバルトやマンガン、ニッケルという高価な素材を使う三元系リチウムイオン電池より大幅に安くできる! 加えてリン酸鉄なら材料だって豊富に存在します。

次ページは : ■搭載スペースは3割減で、従来型と同サイズで2倍の性能に!?

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