さまざまな国の特装車を紹介する「世界の特装車」。今回は「クルマを運ぶクルマ」こと一台積み車両運搬車(車載車)を特集します。自動車大国アメリカでは、どんな車載車が活躍しているのでしょうか?
文/緒方五郎(商用車ライター)、写真/メーカー各社
アメリカの車載車事情
米国の車載車はスライド荷台型が主流で、「カーキャリア」「ロールバック」「スライドベッド」等々の俗称がある。
事故などで大破したクルマに対するウインチ作業や搬送作業を前提として設計されており、運ぶクルマのサイズと重量も大きめなため、頑丈につくられているのが特徴だ。
ベースシャシーはクラス5(GVW7.2〜8.8トン)以上の中大型トラックが一般的。荷台傾斜角は一部を除いて10度前後と見られるが、低車高車の積載には荷台の一部だけ傾斜角を変える(固定型や可変型がある)など、日本の車載車とは異なる思想を持っている。
また、スライド型荷台に牽引装置(ホイールリフト)を加え、車載車一台でクルマ2台を運べるものも普及している。
自動車大国だけに車載車メーカーは多く、ユニークな設計や機能を備えたモデルも見られるのが面白い。
アメリカの一台積み車両運搬車の歴史
アメリカにおける一台積み車両運搬車の歴史は、不明な点が多い。上の写真は1917年にレッカー車を発明したアーネスト・ホルムス氏が考案した「チルトベッド・キャリア」と言われているが、ホルムス・レッカーと異なり詳細や真偽は不明で、特許資料もない。
ただ、キャブ側面に搭載したウインチ作業用デリックは、ホルムスの特許と同じように見える。
一方、ジャーダン車載車の源流は、ペンシルベニア州に存在していた農業機械メーカー、グリーンキャッスル(GEM)社が1950年代に開発し、特許も取得したスライド車載車「ハイドラ・チルト・ロールバック」である。
ほどなくGEM社の農機&車載車事業はグローヴ社(建機クレーンで知られる)に買収され、それを1972年にジャーダン社が買収して今日に至っている。
アメリカで活躍する車載車たち
●センチュリー「12LCGライトアプローチ」
レッカー車メーカー最大手のミラーインダストリーズ社のスライド車載車で、「12」は積載量12000ポンド(約5.4トン)、「LCG」は低重心荷台を意味する。 荷台傾斜角は11度だが、荷台後部の傾斜角を緩和する油圧式中折機構「ライトアプローチ」により、乗込角を6度に緩められる。
●ティタン「ZLA」
ミラーインダストリーズの大型車載車で、同社唯一の荷台接地型スライド車載車である。荷台傾斜角、荷台乗込角ともに低く抑えられているが、積載の対象は乗用車というよりも産業車両であり、ここにも日米の車載車に対する考え方の差異が見てとれる。
●ジャーダン「6トンXLP」
ペンシルバニア州にあるレッカー車&スライド車載車メーカーの積載量5.4トン級スライド車載車の現行モデル。「XLP」とはエクストラ・ロー・プロファイルの意味で、荷台傾斜角は7.5度という低さを備えており、乗込角を低減するためのオプションは設定していない。後部には牽引能力3.5トンのホイールリフトが装着可能だ。
●ダイナミック「ラジアス」
バージニア州のレッカー車&車載車メーカーのスライド車載車。通常タイプもあるが、この「ラジアス」は荷台がなんと240度旋回するもので、作業全長を確保できない現場でも積込作業を可能としている。
●デュアルテック「1035ロープロファイルキャリア」
テネシー州のレッカー車/車載車メーカー。積載量4.5トン級のスライド車載車で、頑丈なスチール製荷台を備えている。「35」はホイールリフトの牽引能力(3500ポンド=約1.5トン)に由来する。