トヨタがFCV関連特許を 無償で公開した真意

トヨタがFCV関連特許を 無償で公開した真意

 トヨタは燃料電池に関連する約5680件にも及ぶ特許を無償で提供することを明らかにした。特許と言えば、特にメーカーにとっては命も同然。

 さらに言えば、特許ビジネスで何百億円ものお金を生み出す財産でもある。

 その貴重な特許を太っ腹にも無償で公開するその真意とは!?


 2015年早々、驚くようなニュースが発表された。トヨタが燃料電池関連の約5680件にも及ぶ特許を無償で公開するという。

 企業にとって特許というものは貴重な財産である。

 これには二つの意味があり、ひとつには時間と労力、そして多大なる開発費をかけて開発した独自の技術を特許というかたちで保護することで、他人(他社)が勝手にその技術を使うことができないようにする。

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 そりゃあそうだ。例えば、トヨタが’97年に市販を開始したプリウスで実用化したTHSというハイブリッドシステム。完成させるまでに費やした時間は20年以上と言われ、開発コストは数百億円にも上る。

 ところがライバルメーカーが市販されたプリウスを買ってきてバラし、メカニズムを真似てしまったらトヨタのかけた時間とコスト、さらに今後期待できた、圧倒的に他社をリードする完成度を持つハイブリッド車の販売による利益などすべてが失われてしまうことになる。

 実際、トヨタはTHS関連の特許をしっかりと握っていることで他社はTHSのようなハイブリッドシステムを商品化することができずにいる。これによって、トヨタがハイブリッド車の世界では圧倒的リーダーとなっていることは見てのとおりである。

 そして特許の持つもうひとつの財産というのが、特許の実施権を提供することで受ける対価である。トヨタに限ったことではないが、特許は対価をもって他者に実施権を許諾することもある。早い話が「金を払えばうちの技術を使わせてあげますよ」ということ。

 これ自体がビジネスにもなっており、一般的には「ライセンス」などと呼ばれている。どうしても必要な技術などが他者によって特許されていた場合、ライセンス契約を結ぶなどして使用料を払って特許に関わる技術を使用するということはよくある話。これ自体がビジネスとして成り立つほどのお金が動く。実際、数十億円単位のライセンス使用料というケースは珍しい話ではない。

トヨタは本気で水素社会を目指す!

 今回トヨタが「無償で実施権を提供する」燃料電池関連特許は約5680件。燃料電池制御システム関連が最も多く約3350件、続いて燃料電池の心臓部ともいえるスタック関連が約1970件、高圧水素タンク関連が約290件、さらには水素供給、製造といった水素ステーション関連の特許が70件となる。

 ただ、勘違いしてはならないのが、「トヨタの特許を無断で勝手に使っていい」という意味ではなく、通常のライセンス契約と同じく、トヨタ側に特許の使用を申し出た上で許諾を受けるということ。

 通常では使用の内容や規模などにより使用量=ライセンス料金が決定されることになるのだが、今回無償公開される案件については、ライセンス料金が無料になるということなのだ。また、トヨタ自動車が単独で所有する特許に限っており、関連部品メーカーなどが持つ特許については今回の無償公開の対象とはならない。

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 実際、特許を検索すると「トヨタ/燃料電池」というキーワードで7516件、絞り込んで「トヨタ/燃料電池/水素/タンク」で262件ともの凄い数の特許が出されている。そのひとつひとつを取り上げていくと誌面がいくらあっても足りないのだが、その個々は実に細かいものである。

 例えば「カソードの触媒被毒物質除去に有益な手法を提供する」という特許がある。燃料電池スタックの発電性能を向上する技術なのだが、正直、特許の書類を読んでもあまりにも専門性が高すぎてなんのことやらわからない。

 「燃料電池筐体ユニット及びその製造方法」という特許は、燃料電池筐体ユニットにおいて、ガス透過膜を筐体に組み付けしやすくするとともに、筐体の製造作業の容易化を図る特許なのだが、こうした部分ににも特許があるのだな、と驚かされる。

 2001年頃に出願された特許にはスタック内部における水素漏れの検知方法などといった、比較的ベーシックな領域の案件が多かったのだが、この2〜3年は低コスト化のためのアイデアや、製造効率を高めるためのちょっとした技術などが多くなっているのが特徴的。

 逆に言うと、日々こうした細部にわたる開発の積み重ねが行われており、これらの積み重ねがあればこそ、アッと驚く新技術が製品となって世に出てくるのだな、と思い知らされる。

 「FCV導入初期段階においては普及を優先し、開発、市場導入を進める自動車メーカーや水素ステーション整備を進めるエネルギー会社などと協調した取り組みが重要であるとの考えに基づくもの」。

 トヨタ自動車では、特許公開の理由をこのように説明する。これはすなわち「トヨタ一社が頑張っていても水素社会の実現には時間がかかりすぎるので、うちの開発した技術を使って皆さんで手を取り合って水素社会の実現に向けて突き進みましょう」と解釈することができる。

 今回公開した特許を通常通り有償ライセンスとしたなら、おそらくは数百億円規模となるはずだ。実に太っ腹なのだが、トヨタとしても単独でFCV開発、普及に力を入れていても一気に拡大するとは思えない、という判断があるのだろう。

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