個性派ダイハツ ネイキッドが目指した理想と現実【偉大な生産終了車】

個性派ダイハツ ネイキッドが目指した理想と現実【偉大な生産終了車】


 毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。

 時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。

 しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。

 訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はダイハツ ネイキッド(1999-2004)をご紹介します。

文:伊達軍曹/写真:ダイハツ


■モーターショーの絶賛を受けて市販化 アレンジ自在の「クリエイティブ・カー」

 すでにムーヴやワゴンRなどのトールワゴンスタイルが全盛となっていた軽自動車界に、背の高さではなく「デザイン性」を武器に殴り込んだものの、残念ながら討ち死にしたモデル。それがダイハツ ネイキッドです。

 デビューは1999年11月。ベースとなったのは、1997年秋の第32回東京モーターショーに参考出品されたコンセプトカー「ネイキッド X070」でした。市販予定はなかったとのことですが、プレスや来場者からあまりにも好評だったため、細部を微調整したうえで市販に踏み切ったのです。

骨太のBピラーとCピラー、前後共通のドアパネル、部分交換も可能な3分割フロントおよびリアバンパーを採用(写真は2000年の特別仕様車)

 そのデザインはネイキッド(NAKED=全裸という意味の英語)という車名が表すとおり、「むき出しの素材感」が最大の特徴です。

 バンパーとフロントグリルはあえて外側から丸見えのボルトで止められており、なおかつ簡単に取り外すこともできます。

 これにより、ぶつけてしまったときの交換作業が容易になると同時に、ディーラーオプションで設定されていた別種のボディパネルに替えることもできました。

 ドアパネルもあえて平板で直線的なものを使っているため、まさに「鉄板」という感じ。

タワーパーキングへの入庫を考慮した1550mmの全高に加え、乗り降りや横からの荷物の積み下ろしを可能にする、ほぼ直角に開くサイドドア・大開口ハッチバックドアを採用(写真は2000年の特別仕様車)

 ドアのヒンジ(ちょうつがい)もあえて外側に丸出し状態で付けられているので絶妙なレトロ感があり、さらに「ドアを90度近くまで開けられる」というメリットもありました。

 搭載エンジンは可変バルブ機構付きの3気筒自然吸気と、同じく3気筒のターボ。トランスミッションは全グレードに4速ATと5MTが設定されていました。

 2002年1月にはマイナーチェンジを実施。専用の角形ヘッドランプを持つFシリーズを追加するなどして頑張ったのですが、結局のところ販売は振るいませんでした。そして2004年4月、ネイキッドは1代限りで販売終了となったのです。

■トールワゴンのリアリティに及ばなかったネイキッドの理想

 ダイハツ ネイキッドが1代限りで生産終了となった理由。

 それは機械面での弱点もいくつかあったからとか、いろいろあるわけですが、煎じ詰めて言うなら「世の中に車好き、デザイン好きな人間というのは確かに存在するが、その絶対数は決して多くないから」ということになるでしょう。

 前章の最初のほうに書いた、ネイキッドが市販されることになったきっかけを思い出してください。

「市販の予定はなかったが、プレスや来場者から好評だったため市販に踏み切った」という意味のことが書いてありますよね?

 これはネイキッドに限らず、当コーナーで紹介している生産終了車ではほとんど「お約束」みたいなフレーズです。

 ダイハツ ネイキッドのようなモデルは、モーターショーに来るほどの車好きとか、自動車メディア関係者には非常にウケるんです。

インテリアデザインも「タフ&シンプル」をコンセプトに板金パネルをデザイン・モチーフに構成直線を基調としたワイドなインパネとフロントコンソールを採用した

 そしてコンセプトカーを見て、「ぜひ市販してほしい! 市販されたら買いますから!」的なことを言います。

 そしてメーカーがそれを真に受けて市販化すると……もちろん「買います!」と言った人の多くは実際に買うのでしょう。

 でも、その絶対数は正直、大したことがありません。

 実用車の、特に軽自動車のビジネス的な成否を分けるのは、マニアックな車好きやデザイン好き、あるいは評論家ではありません。「普通の人たち」が買うかどうかです。

 そういった人たちが、ネイキッドのデザインを見てどう思ったかはわかりません。しかし、おそらく確実に思ったのは「背が低いな……。これなら同じダイハツのムーヴのほうが(背が高いから)何かと使いやすいし、おトクだよな」ということだったでしょう。

 つまり「理想」あるいは「美意識」が、「生活のリアリティ」に負けたのです。

 そしてもちろん、生活のリアリティを優先した人を責めることなどできません。昔あった政党のキャッチフレーズじゃないですが、人間まずは「生活が第一!」ですからね。

 でも、やっぱり無念ではあります。そしていつの日か、ネイキッドみたいな車がカーマニアだけでなく、普通の奥さまとかにもバカ売れする日本になればいいな──と、なんとなく願っています。

■ダイハツ ネイキッド 主要諸元
・全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1550mm
・ホイールベース:2360mm
・車重:800kg
・エンジン:直列3気筒DOHCターボ、659cc
・最高出力:64ps/6400rpm
・最大トルク:10.9kgm/3600rpm
・燃費:19.4km/L(10・15モード)
・価格:107万4000円(1999年式ターボGパッケージ/5MT/FF)

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