これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、これぞまさしく「羊の皮を被った狼」、トルネオユーロRを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/ホンダ
■走りを存分に楽しめるセダンを求めるニーズに応えた
「羊の皮を被った狼」とは、一見、親切そうにふるまっていながら内心ではよからぬことを考えている人物の例えだが、一方で凡庸な見た目ながらとてつもない才能を内に秘めた実力者のことを比喩する言葉でもある。
自動車界においては、後者の意味として使われ、速さをこれみよがしに主張した本格スポーツカーを凌駕するパフォーマンスを有したクルマを「まるで羊の皮を被った~」と称賛するわけだ。
走りで魅了し「羊の~」と称されたクルマが最も多く存在するジャンルがセダンである。もともとセダンは、速さよりも快適性に重きをおいて開発され、派手さに欠ける地味な見た目も相まって「オヤジクルマ」と揶揄されることが多い。
しかし、オーソドックスなフォルムは空気抵抗が低減できて、ボディの開口面積が少ないからボディ剛性が高められる。
そのうえ地上高が低くできるので低重心化が可能。まさにセダンのカタチは、走りを極めるうえでじつに理にかなったものであり、それがセダンのなかに爪を隠した能ある鷹が多く存在する理由でもある。
今でこそセダンが古い様式と捉えられ、その数は激減しているが、かつてセダンが一般的な選択肢だった頃には、セダンをベースにスポーツ性をプラスして走りの楽しさを付加した魅力的なクルマが市場で高い評価を獲得していた。
今回クローズアップするホンダの「トルネオ ユーロR」は、兄弟車であるアコード ユーロRとともに、セダンのスポーツモデルを求める通なユーザーから絶大な支持を集めていた。
ベース車であるトルネオは、1997年9月に実施されたアコードのフルモデルチェンジの際に登場したモデルだ。
それまでアコードの兄弟車だったアスコット&ラファーガの後継にあたるが、アコードとはデザインはもちろん、5気筒エンジンをフロントミッドに縦置き搭載するといったメカニズム面でもアコードと差別化されていたアスコット&ラファーガとは異なり、搭載エンジンやグレード展開などあらゆる部分でアコードと共通化された完全な兄弟車として作られていた。
グリル上部のラインがヘッドランプへと連続するスリムな造形を有するアコードに対し、トルネオでは大型のヘッドランプを備えて存在感を高めていたのが数少ない相違点だった。
当時ホンダはクリオ店、プリモ店、ベルノ店と、3チャンネル体制を敷いており、アコードはクリオ店、トルネオはプリモ店とベルノ店で販売されていた。
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