若狭と近江のそれぞれ1文字を取って若江線(じゃっこうせん)。JR湖西線の近江今津〜JR小浜線の小浜を結ぶ、西日本JRバスが運行するバス路線だ。
文・写真:中山修一
(西日本JRバス若江線の写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■「鯖街道」の足を支える交通機関
先日、琵琶湖を路線バスで一周(別記事で紹介)しようとして、ものの見事に負け戦を決め込んだその後。
次の予定も特に決めていない中、ふと若江線の存在を思い出し、バスの時刻もちょうど良さそうだったため、湖西線で近江今津まで足を延ばした。
JR線の新快速で行くと、近江今津は12両編成のうち後ろ8両を切り離す駅になっていて、敦賀方面まで行く前4両への乗客大移動を含めて、電車が到着するたび少々慌ただしくなる。
電車のホームとは対照的に、近江今津駅前の若江線バス乗り場は至って穏やか。通し便は1日10本、10分ほどの待ち時間でバスがやってきた。中型路線車のいすゞエルガミオが使われている、見た目はごく普通の路線バスといったところ。
このバスは、その昔に若狭(現在の小浜市周辺)で獲れた海産物を京(現・京都)まで輸送するための主要路で、運んだ魚の種類に鯖が多かったことから「鯖街道」と名の付いた街道に近い、現在の国道303号線と27号線をメインルートに小浜へと向かう。
始発から乗車したのは3人くらいと、これまたローカル路線バス然とした様子で、緑豊かな景色の中を、張り詰め知らずな空気感にマッタリ包まれながら、約33.5kmの道のりを1時間ちょうどで走り小浜駅前に着いた。運賃は1,350円。
バスの見た目や乗り味は、旅の足に使うと楽しいローカル路線バスそのもの。平均的と言えばそうなのだが、実はこの若江線、バス路線としては物凄く珍しい素性を持っていたりする。
■こんなところが珍しい(1):国鉄バスの直系
西日本JRバス若江線のルーツを辿ると、元々は近江今津〜小浜方面(現在の上中駅)間に鉄道を通す計画があり、線路の着工に先立ってまずバス路線を仮の輸送手段として用意するところから始まっている。
戦前の省営バス→戦後も国鉄バスが引き続き、鉄道と同等のバス路線「自動車線」の若江線として運行していた。ところが後に鉄道線の計画が立ち消えになり、自動車線の若江線のままバスが残った形だ。
JRになってからも、旧・国鉄自動車線の時代から大してお作法を変えない“直系”と言えそうなスタイルのまま、今日に至っているのが若江線の珍しいところ。
国鉄の頃は、鉄道とバスを1枚の切符にまとめて発券する「連絡乗車券」というものが今よりずっと一般的であった。1枚の切符にすることで、全国の国鉄の鉄道/バスをスムーズに利用できたわけだ。
国鉄がJRに変わり、鉄道とバスが別会社の関係になると、連絡運輸を解消したり、他の民営バス事業者に路線を譲ったり、路線自体が廃止されたりと、今やほぼ絶滅に近い制度になってしまった。
そんな状況の中、若江線は2024年春現在も、条件が合えばJR線とバスを1枚の切符にまとめた連絡乗車券が作れる。これが出来る路線は希少中の希少だ。
また、殊に近江今津駅では、狙えば10分ほどの連絡で電車→バス(その逆も然り)に接続できるよう、ダイヤの連携を維持しているのも注目すべきポイント。
最近は、わざと繋がらないようにしている場所もあるくらいなので、ちゃんと利用者の使いやすさを考慮してくれているのが嬉しい。