車の「顔」を取り巻くトレンドが近年、大きく変わってきている。
自動車の顔に例えられるフロントマスクのデザインは、車種のイメージやキャラクターを端的に表す役割を持つ。
なかでも表情作りに重要な「眼」にあたるヘッドライト形状だが、特に2010年代に入ってから「つり目」の車が急増している。
そもそも1980年代に入るまで車のヘッドライトは規格サイズがあったこともあり、丸型か角型がほとんどだったが、今では「丸目」や「角目」の新車は大きく減少している。
いかにも造形が複雑そうに見える「つり目」はなぜ可能になったのか?
文:永田恵一
写真:編集部、MITSUBISHI、shutterstock.com、SUZUKI
【画像ギャラリー】「つり目」に見える!? LEDヘッドライト採用の主な国産車
「つり目」が増えた理由【1】樹脂製ヘッドライトの普及
1990年代中盤あたりまでヘッドライトのレンズ(表面部分)はガラス製だった。
ガラス製ヘッドライトは、「古くなっても紫外線やヘッドライトの点灯による内部から熱による黄ばみが起きにくい」というメリットもあるが、重い、接触事故などで破損した際に割れて路上に飛散しやすい、そして造形が難しい、造形の自由度が少ないといったデメリットもあった。
そこに登場したのが樹脂製のヘッドライトレンズである。
樹脂は身の回りにあるプラスチック製品を見ても分かるとおり、複雑な造形にも対応しやすい。この特徴が車のヘッドライトにも応用され、つり目に代表される複雑な造形のヘッドライトの実現に大きく貢献した。
また、樹脂製のランプ類は現行アルファード/ヴェルファイアやデリカD:5のようなヘッドライトとポジションランプやフォグランプを、上下二段に分けたものの登場にも寄与しており、シャープな表情のクルマの増加につながっている。
「つり目」が増えた理由【2】LEDライトの普及
つり目のヘッドライトを実現するためには、外側だけでなく内部の技術革新も必要だった。
ヘッドライトの光源は燃焼式にはじまり白熱電球、ハロゲン、HID(=ディスチャージヘッドランプ)と進化し、特に明るさや耐久性は進歩し、電力消費量も減ったが、小型化はあまり進まなかった。
造形の自由度は上がったものの、ヘッドライト自体はそれほど小型化しなかった流れを変えたのが、「LEDライト」の登場だ。
LEDライトは、HID以上に明るく、長寿命かつ表面に発する熱が少ない(そのため消費電力もHIDより少ない)ことに加え、サイズも小さいというメリットも持つ技術である。
だが、市販車初採用は1000万円を超えるレクサス LS600h(2006年登場)だったことからも分かるように、当初はコストが非常に高く、普及まで時間が掛かった。
しかし、2013年あたりから量産による低価格化も進み、市販車のオプションにあれば比較的気軽に選べるくらいの価格になったこともあり、普及に拍車が掛かった。
つまり、小型なLED光源に外側の造形の自由度が高い樹脂製ヘッドライトが加わり、つり目のようなヘッドライトが作りやすくなったというわけだ。
そのため普段気にすることは少ないが、現行車のヘッドライトを観察してみると、軽自動車やコンパクトカー、商用車のようにコストの安いハロゲンヘッドランプの車種は、(ライトの)サイズが大きかったり、造形もオーソドックスなものとなりやすい傾向だ。
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