ヤマハ「YZF-R25」をベースに排気量を320ccへとアップし、2015年に国内モデルとして初登場した「YZF-R3」。発売から10年を経た2025年モデルは、最高峰マシン「YZR-M1」から継承されたM字インテークをフロントカウルに採用し、灯火パーツも一新。アシスト&スリッパークラッチ、USB Type-Aソケットの装備、スマホ専用アプリ「Y-Connect(YAMAHA Motorcycle Connect) 」への対応など、利便性も大いに向上している。
文/小川浩康
レーサーイメージを高めつつ便利な機能も充実
気軽にスポーツライディングを楽しめるモデルとして開発された「YZF-R25」をベースとし、2015年に国内モデルとして初登場した「YZF-R3」。
「よりすぐれた走行性能を楽しめる」という開発テーマを実現するために、シリンダー内径を60.0mm→68.0mmへと拡大し(行程は44.1mmで同一)、排気量を249cc→320ccへと増大することで、最高出力を35PS→42PS、最大トルクを2.3kgf・m→3.1kgf・mへと向上している。さらに、「日常域での扱いやすさはそのままに」というテーマも両立するために、最高出力の発生回転数は12000rpm→10750rpm、最大トルクは10000rpm→9000rpmとそれぞれ引き下げている。
2019年にはフロントカウルとスクリーンの形状を変更し、倒立フロントフォーク、前後ラジアルタイヤ、フル液晶メーターなどを装備。2023年にエンジンを新排ガス規制に適合させている。
2025年モデルではフロントカウルを一新。ヘッドランプをM字ダクト内に設置したプロジェクタータイプとし、ポジションランプも「睨み目2眼」の4エレメントタイプへ変更することで、「YZF-R」シリーズのレーシーなイメージをより強調している。さらに、クラッチレバー形状と位置を変更し、アシスト&スリッパークラッチを装備することで、クラッチレバーの軽い操作性とシフトダウン時の余剰トルクの軽減も実現。USB Type-Aソケットも装備され、燃費や最終停車位置などの情報が得られるスマホ専用アプリ「Y-Connect(YAMAHA Motorcycle Connect)」への対応など、利便性を高める装備を充実している。また、シート幅とサイドカバーをスリム化することで、足着き性も向上。走行性能の高さはそのままに、より快適なライディングを楽しめるようになっているのが大きな特徴だ。
YZF-R3の足着き性をチェック
トルクとパワーの向上で高められたスポーツ走行性能
YZF-R25をベースに開発されたYZF-R3は、車体サイズ、シート高、車重が同一数値になっている。実際にYZF-R3に跨ると、車体をコンパクトに感じるライディングポジションもYZF-R25と変わらない。セパレートハンドルによる前傾姿勢にキツさは感じず、前輪に自然と荷重がかかり、しっとりと落ち着きのあるハンドリングになっているのも好印象だ。
アイドリングはメーター読み1400~1600rpmで、2000rpmからトルクが立ち上がり、3000rpmで実用的な太いトルクが出てくる。停止状態からの発進の印象はYZF-R25と変わらないが、YZF-R25が4000~6000rpmへ回転を上げていくほどトルクも増してスムーズに加速していくのに対して、YZF-R3は4000rpmをキープしてシフトアップしても、交通の流れをリードできる加速力を発揮する。車重は169kgと同じなのでパワーウエイトレシオ的にYZF-R3がYZF-R25を上回り、一段上の加速力を発揮するのも当然と言えるが、排気量拡大で増したトルクとパワーはYZF-R25よりも低い回転域で発揮され、6000rpm~の高回転域でのパワーはYZF-R25以上に伸び、全域で扱いやすさを感じられるエンジン特性になっている。
この全域での扱いやすさがYZF-R3の大きなメリットと言えるだろう。充分な加速力をより少ないスロットル開度で得られ、さらに、新たに装備されたアシスト&スリッパークラッチと新形状のクラッチレバーが操作荷重を旧モデル比17%低減している。軽量な車体を軽い操作感でコントロールできるので乗り味は軽快だが、ハンドリングはフラフラしないので安定性も感じられる。前傾姿勢のライディングポジションはヒザまわりに窮屈さがあり、ややタイトに感じるが、それが車体との一体感としても感じられる。そうした一体感は、ライダーの操作・動作に対する車体のダイレクトな反応にもなっていて、ライディング中はマシンコントロールのしやすさをつねに感じる。
扱いやすくて速い! オールマイティさはYZF-Rシリーズでベスト
全域で扱いやすいエンジン特性は、スポーツライディングだけではなく、市街地や高速道路でも感じられる。低回転域でのトルクの粘りは、ゴー&ストップを繰り返す渋滞路でエンストを防ぎ、中回転域のトルクの太さは、交通の流れにのっている時に4速や5速固定を可能とし、高速道路では6速固定でのクルージングにも余裕を感じさせてくれる。そして高回転域のパワーの伸びは、ワインディングや高速道路でのスムーズな加速を実現している。
前後サスペンションは荒れた路面ではコツコツとした衝撃をハンドルグリップに伝えてくるが、そうした衝撃を受けた際のサスストロークの収束は早く、車体をすぐにフラットな姿勢にキープしようとする。前後ブレーキはタッチがよくて制動力に不満はなく、ABSの介入も頻繁ではないので、制動力をコントロールしやすい。
こうした扱いやすさがライダーの疲労を軽減し、カウルの整流効果の高さが高速道路での快適性を高めていることもあり、YZF-R3はツーリングも楽しめるマシンになっている。確かにセパレートハンドルによってライディングフォームは前傾となるが、シートの前後長に余裕があってポジションの自由度は高く、両腕を伸ばして上半身を起こしたリラックスしたライディングフォームもとれる。
YZF-Rシリーズには現在、より軽量な単気筒モデルのR125とR15、車重は重くなるがさらにパワフルなR7とR1がラインナップされているが、トルクとパワーに不足を感じず、一方でパワーに振り回されず、扱いきれそうな感触が得られるのはR25とR3だと個人的に思う。中でも、低中回転域での扱いやすさと高回転域でのもうひと伸びを両立しているR3の速さとオールマイティな扱いやすさのバランスは、YZF-Rシリーズでベストだと思った。車検を含めたランニングコストではR25と差があるが、プラスアルファの速さと乗りこなす楽しさ、ツーリングでの快適性を重視するならR3をオススメしたい。
なお現在、YZF-R3 / YZF-R25ともに多くのライダーからの好評により受注が多数。店舗在庫がない場合は入荷に時間がかかる状態となっているようなので、気になったライダーは早めにショップへ問い合わせが必要だろう。

















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