筆者(小川勤)の大先輩であり、30年来の友人である、ライターの伊藤康司さんがロイヤルエンフィールドのベア650を購入した。以前、乗っていたバイクは、カワサキZ2。往年の名車である。伊藤さんは、1963年生まれの超バイクブーム世代。そんな伊藤さんを誘い出し、2台のベア650でツーリングへ行ってきた。
文/小川 勤
ベテラン世代のバイク選び
「小川君、ロイヤルエンフィールドのベア650ってどんなバイク?」伊藤さんからそんな電話があった数週間後、「ベア650、買っちゃった」と再び連絡があった。意外だったが、伊藤さんはその選択が正しかったと言い、とても幸せそうだ。何が起きたんだろうか?と思い筆者(小川勤)は伊藤さんをツーリングに誘った。
伊藤さんは、16歳で自動二輪免許(中型限定)を取得しGL400を購入。19歳で限定解除し、20歳の頃にはドゥカティの900SSを所有。その後、SR500、VMAX、RZV500R、YSR50、ジレラ500サトゥルノ、MHR900、GS750Eを乗り継ぎ、30歳(1993年)の時に750RS[Z2]を所有する奥様と結婚。
その後は、サンダーボルトS2、ポッケ50、ジェベル200、VTR1000 SP-1、KZ1300、MHR900を所有。様々なバイクを乗り継ぐものの、Z2だけは所有し続けていた。バイクショップでメカニック経験もある伊藤さんは、KZ1300のエンジンを自分でオーバーホールしてしまうほどの腕の持ち主で、僕も個人的に様々なメンテナンスやカスタムを手伝ってもらったし、教わった。
だからZ2が手に負えなくて手放したわけではない。僕も伊藤さんのZ2には何度か乗せてもらったことがあり、その気持ちよさや快調な乗り心地を経験させてもらった。
「高校生だった頃、クラスのほとんどの男子が二輪免許を持っていた時代からバイクに乗り始め、ずっと乗っています。Z2はいま乗っても遅くないし、メンテナンスを続けていれば普通に走らせることができます。トラブルがあってもどこがダメなのかがすぐにわかるため、実は何も困らないんです。ただ、変に価値が上がってしまった。
もちろん価値が上がるのは嬉しい。一方で気軽に乗れないリスクに悩みました。盗難などを実際に耳にすると不安で、ここ最近は動体確認で乗るような気持ちになってしまったんです。キャブのフロートのガソリンが腐らないように乗る(笑)、そんな状況が次第にストレスになってしまったんです。Z2は、バイクとしてはとても好き、とてもいいバイクです。でも普通に乗れなくなってしまいました」と伊藤さん。

ベア650のエンジンは648ccの空冷ツインで47psを発揮。270度位相クランクを採用することで90度Vツインなどと同じ爆発間隔を得ている。独特の不等間隔爆発のリズムが気持ちよさを披露。クランクやフライホイールマスの設定も絶妙だ。

伊藤康司さん。伊藤さんは、筆者(小川勤)がえい出版社に入社した際に販売部に在籍していた先輩。その後、伊藤さんは僕と同じライダークラブ編集部に異動し、フリーへ。僕がレースに出る際はクルーとして同行してくれ、夜な夜なカスタムやチューニングに没頭したことも。現在も一緒に仕事をする30年以上の付き合い。まさか伊藤さんがZ2を手放す時が来るなんて、とは思ったが、ベア650とのバイクライフはとても幸せそう。
途切れない歴史とストーリーのあるバイクづくり
「自分にとって普通に乗れるバイクってなんだろう?と考えました。試験場に10回くらい通って限定解除した世代ですから、やっぱり大型がいい。年齢的にも体力に不安を感じ始め、ただ、乗り続けてさえいれば長く乗れると思ったんです。ブランクを作りたくなかったんです。
パフォーマンスは求めていない。ただ性能が低いものは欲しくない。じゃあ、性能って?と色々考えると自分でも面倒臭い大人だなって思います(笑)。W800やメグロ、ドゥカティのスクランブラー、選択肢は自然とツインエンジンになっていました。なぜか、4気筒は選択肢に入らなかったです。僕にとっての4気筒は高回転、ハイパフォーマンスエンジンなんです。新車、中古車含め色々とみましたが、全体的に中古車は価格が高く感じましたね。そこでロイヤルエンフィールドが選択肢に入ってきたのです。
で、これは少しずるいとは思いましたが、ライターの河野さんや小川君といったロイヤルエンフィールドと接点のある業界の知人に話を聞いたんです。2人の記事が忖度していないことはわかりますが、そうじゃない生の声を聞いてみたかった。バイクの魅力だけでなく、メーカーの魅力、生産体制、品質管理、部品供給、トラブルの有無などを聞いたんです」
「実は、ロイヤルエンフィールドは、1901年の創業から1度も途切れていないメーカー。それも購入の決め手になりました。確かに復活している昔のメーカーはたくさんあります。でも、そこにストーリーはない。名前だけのブランドが多いですよね。でもロイヤルエンフィールドは違う。さらに驚いたのは、調べると全てのバイクに明確なストーリーがあったんです。
例えばベア650ならアメリカのビッグ・ベア・ランというレースが由来にあり、僕が買ったツーフォーナインのカラーは、その時に優勝したロイヤルエンフィールドのゼッケンだったりする。同じプラットフォームを使って、ただ、異なる形のバイクを作っているんじゃないところにも惹かれました」と伊藤さん。
古くさくないのに、絶好調の旧車に乗っているような気分!
「今、ベア650の走行距離は800kmほど。走るほどにエンジンのフィーリングが良くなってきました。驚いたのは新車の状態でミッションのタッチがとても良いところ。648ccにしては大きめのエンジンですが、ミッション周辺のパーツに良い素材を使い、しっかり剛性を確保しているのがわかる。要はコストのかかったエンジンなんです。ギヤチェンジが気持ちいいと、それだけで市街地を走り出すのが楽しい。だから乗る機会が増えます。Z2とは正反対のバイクライフになりました。
それから色々なところからバイク好きが作っていることが伝わってきます。キャリアを問わず楽しめる性能の追求って、1ps上げるよりも難しいことだと思うんです。でも、ロイヤルエンフィールドはそこを追求している。
乗り味においても気持ちがよく、楽しい。不安がどこにもなく、それはエンジンにもハンドリングにも唐突な部分がないから。これが『高い次元で乗りやすいキャラクター』を作り、かといって緩いバイクじゃないから様々なバイクを乗り継いできたライダーも納得できる。
キャリアの浅い人が怖がらない、それでいて長く乗ってきたライダーが我慢しなくていいバイクって中々ないんです。古くささは全くないのですが、絶好調の旧車に乗っているような気分にもなります。この感性は、今の時代にとてもマッチしているし、まさに僕の理想にもピッタリです。河野さんや小川君から話を聞いていたけど、正直、ここまでだとは思わなかったですね」と伊藤さん。
ちなみに筆者(小川勤)が借りてきたベア650の走行距離は2000kmほど。このくらい走るとまずエンジンのレスポンスが変わる。そして120km/h巡行がとても快適になる。5000回転くらいの吹け方が軽くなり、無理に回っている感覚がなぜか消えるのだ。このエンジンは、昔のBMWやモト・グッツィのように距離を重ねるとどんどん良くなっていき、長く乗るほどに愛おしい存在になる。この真剣な作り込みが、様々なキャリアを積んできたベテランさえもをピュアモーターサイクリングの世界観に誘い込むのだ。
















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