995cc2気筒エンジンを積む、SBKホモロゲーションマシンTL1000R

995cc2気筒エンジンを積む、SBKホモロゲーションマシンTL1000R
 
文/後藤秀之 Webikeプラス
 

スーパーバイクのレギュレーションが生んだ、2気筒エンジン車

 WSB(スーパーバイク世界選手権)は、今も昔も公道用車両ベースレースの最高峰であり、市販車の売り上げに直結しているレースである。1994年にドゥカティがWSBに916を投入すると、1996年まで3年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得する。これはライダーであったカール・フォガティとトロイ・コーサーのポテンシャルの高さというのも一因ではあったが、4気筒は750ccまで、2気筒は1000ccまでというマシンレギュレーションも大きく影響していた。

 916に対抗するためにホンダはVTR1000F、スズキはTL1000Sという2気筒エンジンを搭載したスポーツモデルを発表し、そのエンジンを使ってより戦闘力をアップしたWSB用ホモロケーションマシンと言えるVTR1000SP1/2とTL1000Rを投入した。

 VTR1000SP1/2とTL1000Rは、それぞれのベースとなったモデルよりも剛性を高めたフレームや足回りを与えられていた。結果としてホンダはワークス仕様のVTR1000SPWを投入した2000年にコーリン・エドワースがWSBをチャンピオンを獲得、鈴鹿8時間耐久レースやデイトナ200マイルレースなどでも勝利を挙げている。対するTL1000Rはレースに参戦したのは1998年のみで、思ったような結果を残すことはできなかった。

 

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WSBにおいて2気筒エンジンのポテンシャルを証明した916は、3年連続でメーカータイトルを獲得し他メーカーの車両開発に大きな影響を与えた。

 

 

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ホンダのVTR100SP2のレースベース車両。SBKカテゴリーにおいて王者ドゥカティ916を脅かす存在であり、耐久レースなどでも活躍した。

 

 

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TL1000RのベースとなったTL1000Sは、アルミ製のトラスフレームやロータリーダンパーなど様々なアイデアが盛り込まれたスズキらしいスポーツバイクであった。

 

 
 
 

勝利するために与えられた、レーシングスペック

 レースにおいて戦績を残すことができなかったTL1000Rだが、その車体はスズキらしい様々なチャレンジを感じるバイクである。ボディデザインはTL1000Sから大きく変更され、よりスラントした形状のフルカウルやシングルシート風デザインのシートカウルを採用したレーシーなデザインを採用し、空力性能も向上している。

 

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TL1000Sのエンジンをベースに高度にチューニングされたエンジンを、アルミツインスパーフレームに積んだTL1000Rは、レースベース車として開発されている。

 

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個性的なヘッドライトの形状が、TL1000Sとの数少ないデザインの共通点だ。

 

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大きくはね上げられ、エンド部が内側に寄せられた2本出しマフラーが特徴的なリアビュー。

 

 

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カウル類を取り外してストリップ状態にすると、コンパクトにまとめられた車体がよくわかる。ホイールベースもTL1000Sより短く設定されている。

 

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フロントカウルはかなりスラントした形状になっており、空力特性はTL1000Sよりも向上している。

 

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ホワイトパネルのタコメーターを装備し、コクピットにレーシーなイメージを醸し出す。レッドゾーンは11000rpmからとなる。

 

 エンジンのベースとなったのはTL1000Sの水冷4ストローク90度V型2気筒995ccだが、鍛造ピストンや軽量高強度コンロッドなど内部パーツは徹底的に見直され、インジェクションボディ径を52mmから60mmにアップすると共にツインインジェクター化されている。TL1000Sにも採用されていたラムエアシステム「SRAD(Suzuki Ram Air-Direct)」もより進化させ、大容量サイレンサーを備えたエキゾーストシステムなども装備することで、海外仕様はTL1000Sの125PSから135PSへとパワーアップされている。また、ギア比は変更されていないが、クラッチにはバックトルクリミッターが組み込まれ、扱いやすさという面でもTL1000Sよりも進化していた。

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90°Vツインタイプのエンジンは995ccの排気量から135PSを発揮するが、国内仕様は93PSに抑えられていた。

 

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エンジンの透視図。基本構造はTL1000Sのエンジンと同じだが、内部パーツの変更でレスポンスやピークパワーが向上している。

 

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ピストンはより軽く高強度な鍛造タイプを採用。メーカー出荷時に鍛造ピストンを組み込まれている時点で、このエンジンにコストがかけられていることがわかる。

 

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コンロッドも軽量高強度タイプの物が組み込まれ、高回転で高出力なエンジンを生み出している。

 

 

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1998年当時はキャブレターからインジェクションへの過渡期であった。インジェクションを採用したTL1000Rは各部にセンサーが設けられ、ECU制御されている。

 

 車体では、フレームはTL1000Sのアルミトラスフレームから、より剛性の高いアルミツインスパーフレームへと変更されているのが最も大きな変更点だ。また、エンジンマウントは4点懸架タイプとされ、サブフレーム付きのスイングアームなどと組み合わせることで総合的に車体剛性が向上。フロントフォーク径はTL1000Sと同じ43mm径、リアサスペンションもローターリーダンパーを引き継ぐが、リアスプリングユニットを車高調整式に変更している。エンジンの搭載位置やヘッド形状をを調整することで、ホイールベースはTL1000Sの1415mmから1400mmへと短縮されて運動性能を向上させている。ちなみに、国内仕様のキャスター角は24°、海外仕様は23°とセッティングが異なっている。タイヤサイズはフロント120/70-17、リア190/50-17とTL1000Sと同じサイズだが、フロントのブレーキには6ポッドキャリパーが採用されている。

 

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43mm径の倒立フォークや6ポットキャリパーを採用したブレーキシステムなど、当時最新の装備が与えられていた。

 

 

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リアサスペンションはスプリングとダンパーが別体になっており、ダンパーはロータリータイプが採用されている。

 

伝説は残せなかったが、その価値は認められつつある

 装備やスペックで見ればライバルである916やVTRに劣らぬ装備を持つTL1000Rだが、レーサーレプリカ、いやレーサーベースと呼ぶべきバイクに不可欠の「勝利」という冠を得られなかった。それ故に伝説のバイクとはなり得ず、一時期は不人気なレアバイク的な扱いになってしまっていた。しかし、ここ最近中古車の値段はグングンと上がり続け、極上車であれば新車価格を軽く超えるプライスが付けられるようになった。程度の良い車体が少ないというのも価格上昇の原因ではあるが、1990年代後半から2000年代の初頭にのみ存在した2気筒1000ccというスーパーバイクのホモロゲーションマシンであるという、このバイクの価値が認められたとも考えられる。各部の作りの良さを見れば、SBKカテゴリーで勝利するために、いかにスズキがこのバイクを本気で作ったかがよくわかる。誕生から26年もの年月が経過し、部品の入手も難しくなってきてしまったが、維持していく価値のあるバイクの1台であることは間違いない。

 

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エキゾーストシステムやインジェクションなどが確認できるレース用パーツ。これ以外にも、足回りやエンジン内部パーツ、ボディキットなどが用意されていた。

 

TL1000R主要諸元(1998/国内仕様)

・全長×全幅×全高:2105×740×1125mm

・ホイールベース:1400mm

・シート高:815mm

・乾燥重量:197kg

・エジンン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型2気筒 995cc

・最高出力:93PS/8500rpm

・最大トルク:8.6㎏m/7000rpm

・燃料タンク容量:17L

・変速機:6段リターン

・ブレーキ:F=ディスク、R=ディスク

・タイヤ:F=120/70-17、R=190/50-17

・価格:108万円(当時価格)

 

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/398093/

995cc2気筒エンジンを積む、SBKホモロゲーションマシンTL1000R【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery2/?gallery_id=398093

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