新型コロナの問題は収束を見せているが、その先が心配なのは、実は貸切バスの分野だ。旅行形態の変化により市場が縮小しているうえ、路線バスと違い公的な補助を期待できないからだ。そんな中、貸切バス専業者が始めた「旅程投稿サイト」。その背景と戦略は?
(記事の内容は、2023年1月現在のものです)
文、写真/成定竜一
※2023年1月発売《バスマガジンvol.117》『成定竜一 一刀両断高速バス業界』より
■団体中心で成長した日本の観光
新型コロナの問題がいつかは収束するとして、その先が心配なのは、実は貸切バスの分野だ。旅行形態の変化により市場が縮小しているうえ、路線バスと違い公的な補助を期待できないからだ。
日本の観光産業の特徴は、戦後、「旅行会社主導」「団体旅行中心」で成長した点だ。もっとも、観光というビジネスは、遠隔地の消費者に売るものだから、旅行会社という流通機能が必要で、それは万国共通だ。
しかし、日本社会には、近世以来の、地域の強固なコミュニティがあった。戦後も、それらは地縁団体(町内会)、農協などの団体、さらには大家族的と言われる日本企業の職場に引き継がれた。
旅行会社はそれらを対象に団体旅行の提案をしかけ、「慰安旅行」という文化を生んだ。
高度成長期を経て個人旅行のニーズも生まれたが、公共交通や高速道路網は未整備で、貸切バスを使う旅行会社のパッケージツアーが成長した。
その結果、日本の観光産業は、画一的な大型温泉旅館と貸切バスに象徴される「マス・ツーリズム」が支配することとなった。
一方、旅行を取り巻く環境は大きく変わった。町内会などのコミュニティは力を失い、お付き合いを主目的とした「社会的な旅行」は激減した。個人で気軽に旅を楽しめる環境が揃ったし、人々は旅慣れし、目が肥えた。
同時に、余暇の過ごし方は多様化した。旅に出ること自体が目的となった時代は終わり、一人ひとりの関心に基づく旅行でないと喜ばれなくなった。
■変化を求められる観光産業
これに対応するため、旅行、観光の業界では、2000年頃から「ニュー・ツーリズム」が唱えられた。
物見遊山の旅からテーマ性のある旅へ。ツアーのあり方も、出発地の旅行会社が企画する通り一遍のツアー(発地型)から、地域をよく知る現地の会社による、現地集合型のツアー(着地型)へ。ウェブ化進展による情報収集や予約手配方法の変化が、それを後押しすると思われた。
20年が経過し、業界には一定の変化があった。現に、クルマ旅行であれば、相当、自由な旅行を楽しめるようになった。ただ、ごく一般的な旅行者が、公共交通を乗り継ぎながら、「着地型ツアー」や体験型アクティビティを上手に取り込んだ、自分なりの旅行を楽しんでいるように見えない。
それどころか、貸切バス分野の規制緩和による運賃下落などを背景に、格安を謳うバスツアーが人気を集めるという「先祖返り」さえ、一時は起きた。
このバスツアー人気と、インバウンドがその初期に団体ツアーから成長したことが、貸切バス関係者に誤った安堵感を与えたことは間違いない。だが、前者は顧客の高齢化が、後者はFIT化が進み、コロナがなくても市場が縮小することは目に見えていた。
筆者は、有名観光地を総花的に回る「マス・ツーリズム」から脱却し、個人ごとに「分化」し「深化」した旅行へ変化するという見立てに共感する。