鉄道ほどジャンルが細分化されている趣味は珍しいかもしれないが、その中でも特にディープなのが「未成線」だ!! 「廃線」とはまったく趣が異なるこの響きをバスで堪能することもできる。
文・写真:中山修一
(写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■そもそも未成線ってナンだ?
鉄道の未成線は、その名の通り「できていない路線」であるが、性質が何種類かに分かれる。まずは、鉄道を通す計画を立て認可まで得たものの、未着手のままだったり、いつの間にか計画が立ち消えとなったパターンがある。
もう一つは、計画を立て認可を得て、インフラの建設を始め完成間近まで迫ったものの、何らかの理由によって、一度も列車が走らないまま工事が中止になってしまったケース。
鉄道趣味での未成線は、主に後者を指す。この場合、途中まで作られた線路の路盤やトンネル・橋などが放置され、今もその姿を留めている場所がある。
歴史を研究したり、遺構を観察しに現地まで足を運んだりするのが未成線の楽しみ方だ。廃線跡巡りに近いのだが、過去そこに列車が走ったかどうかが大きな違いとなっている。
鉄道趣味なら、普通はレールの上を走る車両本体を楽しみの対象に持ってくる。ところがこの未成線となると、車両に直接の関係はない。
妄想に迫るほどの想像力をフル稼働させつつ、付け合わせしか乗っていないステーキ皿から肉を超える美味しさを見出すような、たいへんストイックな種目でもある。
■見どころ満載の未成線
遺構が残っている未成線はあちこちに点在している。中でも、北海道の函館市に位置する未成線「戸井線」跡は特に壮観だ。
戸井線は、現在のJR函館本線の五稜郭駅から分岐して、津軽海峡沿いを南東方向に進み、約29km先の戸井までを結ぶ予定の鉄道路線だった。
軍事輸送が戸井線を建設する当初の目的で、1936年に建設が始まった。しかし戦争中の資材不足のため、1943年に約26km先までインフラ部分ができたところで工事が中断された。
戦後も私鉄路線への転用や、青函トンネルの計画が立ち上がった際、戸井線の通っていた場所が本州から北海道まで最短距離に位置していたことから、トンネル着工の暁にはインフラを再利用する案もあった。
しかしいずれも実現せず、工事も再開されることは一度もなく未成線の仲間入りを果たし、既に解体された箇所も多いが、できたインフラの一部が工事中断から80年経った2023年現在も残っている。
今や作られることも珍しくなった、コンクリアーチ型の立派な構造物が何箇所かに残されているのが、戸井線跡の最大の見どころ。特に函館駅から約23km地点にある「汐首橋梁跡」が遺構の代表格だ。