大量輸送が求められた1960年代……ラッシュ時代が始まったバス激動期にタイムトリップ!!

大量輸送が求められた1960年代……ラッシュ時代が始まったバス激動期にタイムトリップ!!

 交通ジャーナリストである筆者の鈴木文彦氏が、約50年に及ぶ取材活動の中で撮影してきたアーカイブ写真。ここから見えてくる日本のバス史を紐解くこの企画。今回はバスの需要が爆発的に伸びて、定員増・幅広扉などの採用で大量輸送に適した“ラッシュバス”が登場した、激動の時をご紹介する。

(記事の内容は、2023年1月現在のものです)
文・写真/交通ジャーナリスト 鈴木文彦
※2023年1月発売《バスマガジンvol.117》『写真から紐解く日本のバスの歴史』より

■大量輸送を求められた時代のバスが復活

【写真1】かつての姿を完全に復原した旭川電気軌道の1963年式三菱MR430が市内のロータリー交差点を走り、当時を彷彿させる(2022年)
【写真1】かつての姿を完全に復原した旭川電気軌道の1963年式三菱MR430が市内のロータリー交差点を走り、当時を彷彿させる(2022年)

 【写真1】は旭川電気軌道で活躍したわが国最大かつ唯一の3軸路線バス、三菱MR430である。これは過去の写真ではない。2022年10月に同社がお披露目をした復元車である

 1963年に製造されて旭川バスに納入され、旭川電気軌道に統合されたのちの1978年まで活躍した。私自身が初めて旭川を訪れたのは1979年。残念ながら同車が廃車となった翌年で、現役時代を見ることはなかった。

 同車の復元の経緯などは前号に別記事もあるので割愛するが、このバスが現役時代の姿に戻されて保存されるということには、車両そのものの希少性などのほかにも大きな意味がある。

 それは当時の“バス黄金時代”とも呼ばれた時期にあってバス利用者は非常に多く、“1人でも多くの乗客を乗せたい”という要請のもと、フルサイズで定員を増やし、それゆえ軸重の関係で前輪2軸とした大量輸送を求められた時代背景を持つ車両だという点である。

■より長くより幅広のドアでラッシュをさばけ

 MR430自体はその特殊性もあり、12台の製造に終わったが、全国の乗合バス利用者がピークを迎える1970年前後までは、バス利用者は増え続け、特に通勤通学時間帯は地方都市でもかなりのラッシュの様相を見せていた。

 それをさばくために、1960年代に各社はより長尺の車両を導入し、また乗り降りをスムーズにするために乗降扉を広げるなどの工夫を凝らすようになった。一部の事業者ではそうした車両を“ラッシュバス”と呼んだ。

 ちょうどこの時期はワンマン化が進行途上で、“ラッシュバス”も旭川のMR430のようにワンマンで導入されたケースと、ツーマンで工夫したケースの両方が見られた。

【写真2】宮城バスが購入し宮城交通に引き継がれた中4枚折扉のラッシュバス。利用が多く大型が必要だが道路狭隘でワンマン化が遅れた路線で使用された(1979年)
【写真2】宮城バスが購入し宮城交通に引き継がれた中4枚折扉のラッシュバス。利用が多く大型が必要だが道路狭隘でワンマン化が遅れた路線で使用された(1979年)

 【写真2】は宮城バスが導入したツーマン“ラッシュバス”の典型例で、通常の路線バスモデルでは最長の11mクラスの日産ディーゼル4R110に4枚折両開きの中扉をつけたものである。

 定員を多くとり、さらに倍の幅の乗降口で降車扱いをしながらその横で乗車させるという、まさにラッシュをさばくためのバスであった。

【写真3】宮城バスとほぼ同じ日産ディーゼル4R110ラッシュバスが札幌市営でも採用された。ツーマンで市街地を走る最後の姿(1973年)
【写真3】宮城バスとほぼ同じ日産ディーゼル4R110ラッシュバスが札幌市営でも採用された。ツーマンで市街地を走る最後の姿(1973年)

 【写真3】もほぼ同じタイプを導入した札幌市交通局の車両である。その車内の一角を見ていただくと(写真4)、1人掛けシートで立席を増やした仕様であることがわかる。

【写真4】札幌市営のラッシュバスの車内。前扉を増設してワンマン改造した後の撮影のため車掌台は閉鎖しているが1人掛けシートのラッシュ仕様はそのまま(1979年)
【写真4】札幌市営のラッシュバスの車内。前扉を増設してワンマン改造した後の撮影のため車掌台は閉鎖しているが1人掛けシートのラッシュ仕様はそのまま(1979年)

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