テレビ東京の人気番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』を観ていると、どの回でも大抵は県境を越えるために苦労を強いられる場面がある。確かに都府県を跨いで走る路線バスというのも、あまり聞いたことがない。
果たして、全国の県境を越えるバス路線の現状はどうなっているのだろう?
文・写真:中山修一
0.002%!? 県跨ぎ路線は超少ない
全国の県境を越える路線バスを調べたところ、ざっと数えて62路線が見つかった。トータル25,000路線以上あると言われている路線バス網を考えれば、極端に少ない。では、どうしてこれほど少ないのだろうか。
まず、一般道のみを走る路線バスは法律面でも設備面でも、同じ都道府県内・市内・町内で完結するように作られた乗り物だからだ。都府県が違う町から町までの長い距離を結ぶバスを走らせるとなれば、いわゆる高速バスのほうが好都合。路線バスは自然と対象から外れる。
隣の県までバスを乗り入れるには、隣県の自治体やバス会社との協議が必要になる。「パイの取り合い」にならないよう、綿密な調整が要求されるため、手間やコストの面がネックとなるのも県境越えをしない理由の一つだ。そういった事情から、県境の手前でバスが分断されている箇所が沢山ある。
県境を越える路線バスでも、隣の県に入ってすぐの場所を終点に設定して、あまり奥までは行かない形態が良く見られる。
そして何より「需要がない」点が最も大きなポイントだろう。県境のすぐそばに住んでいる場合なら別だが、県を跨ぐというのは、感覚的にも遠出をすることなので、遠くへ行くなら高速バスや鉄道を利用すれば良いと考えるのが普通だろう。実用品としての路線バスはあくまで短距離向けなのだ。
今も残る県境越え路線バスの素顔
全国でも数少ない県境越え路線バス。現在まで運行が続いている路線には、続けるだけの理由があるはずだ。各路線の経路に注目すると、なぜその路線が存在するのか、役割や事情が少なからず見えてくる。
例えば東急バス 反01系統 五反田〜川崎駅ラゾーナ広場線(東京都/神奈川県)の場合、ちょうど鉄道路線と鉄道路線に挟まれたエリアを乗り換えなしで向かえる交通手段を担っている。
奈良交通 21系統 高の原駅〜兜台五丁目線(奈良県/京都府)では、行き先の兜台(京都府)の最寄駅が奈良県にあるため県境を跨ぐ。
鹿児島交通 志布志駅〜都城線(鹿児島県/宮崎県)は、旧国鉄志布志線の代替交通手段の役割があり、鉄道時代とほぼ同じ所を通る関係から県境越えがセットになっている。
他にも、鉄道では大回りになる区間のショートカットルート、鉄道がまったくない地域を通って駅と駅を結ぶ路線、鉄道との競合あるいは共存関係、などの特徴が挙げられる。