全国に25,000以上あると言われるバス路線。その中でも、県境を跨いで走る高速バス以外の一般路線バスの数は極端に少ない。そんな県境越えバスの実態はどうなっているのだろう? 今回越える境界は静岡県と神奈川県!
文・写真:中山修一
乗車時期:2022年11月
温泉地を渡る県境越え路線バス
手頃な距離感と賑わいの良さから、関東地方発の旅の目的地に大変好まれる静岡県熱海市。
2016年にJR線の駅舎が建て替えられ、有名観光地の窓口としてより清潔感のあるイメージとなった熱海駅を背に、左方向へ進むと周辺地域を結ぶ路線バスのターミナルに向かえる。
この熱海駅バスターミナルから、隣の神奈川県湯河原町のJR湯河原駅を結ぶ、県境越えの路線バスが発着している。
熱海も湯河原も温泉が何よりの目玉、いずれも駅から温泉街まで少し離れている所まで共通項を持つが、駅から行く場合は熱海が下り坂に対して湯河原は上り坂である。
温泉地と温泉地を繋ぎつつ、県境まで越えてしまう風変わりなキャラクターを持った路線……それが東海バスA51系統だ。
電車で行けるのに何でバスが?
熱海〜湯河原間には東海道線が通っているので、わざわざ同じ区間にバスを走らせる理由があるの? と勘ぐりたくなる。
所要時間にすると電車で4分のところに対してバスだと20分、運賃は電車190円/バス390円と倍以上する。ホントに何でそんなバス路線が??
ここで注目すべきはJR線の路線図。熱海と湯河原の間には駅が一つもないのだ。
どちらかと言えば端から端までの通し利用ではなく、始点〜終点の間のエリアを行き来したい人の公共の足を最低限確保するためと考えれば、A51系統の価値が見えてくる。
出発時刻に合わせるのが難しい!?
A51系統もまた、県境越えバスである以上避けるのが難しい要素を抱えている。本数の少なさだ。
熱海駅発湯河原駅行きは、6:53、8:20、11:20、14:20、17:50の1日5本。乗りバス旅目的で利用するなら11:20か14:20発の便が現実的な時間帯と言えるので、チャンスは実質1日2回しかない。
今回は水曜日11:20発の便を利用することにした。熱海駅周辺は、ちょうど観光で宿泊した人達が帰り始める時間帯ということで、それなりに賑わっていた。
熱海駅バスターミナル奥の5番乗り場からA51系統湯河原駅行きが出発している。乗り場へ向かうと15人くらい行列ができていて、利用者が多い路線なのかな?と、その時は感じた。
出発の3分前にバスがやってきた。2012年式いすゞエルガミオの「ゆめちゃんバス」ラッピング車だ。乗り場の後ろに駐車スペースがある都合で、ロータリー式ターミナルながらバックで入線してくる少し不思議な光景だ。
後ろドアを締切にして前ドアが出入口になっている運賃後払い方式。ドアが開き、並んでいた人達が乗り始めるのかと思いきや、誰も移動しない……どうやら他の系統を待つ列だったらしい。
湯河原駅行きにはポツポツと利用者が集まってきて、結局8名ほどを乗せて時間通りに出発した。