■北米市場中心とした工夫とこだわりのデザイン
開発を進めたときは、アメリカを中心に安全基準が大幅に強化された時期である。アメリカは世界でもっとも厳しい安全基準を設定し、FMVSS(米国連邦自動車安全基準)は衝突したときだけでなく、横転したときの安全性についても細かい規定を設けていた。
マツダの(当時はユーノス)ロードスターはソフトトップ付きのオープンカーを予定していたから、多くの人は海外では販売できないのでは、と心配したのである。
だが、細かく調査してみると例外規定があることが分かった。そこで、この規定を上手に使い、大きな修正なしに爽快なオープンカーを実現している。
また、販売は北米市場が中心になるから、保険料のランクを左右するパフォーマンスを意識して抑え、バンパーなどの補修費も安く抑えられるようにさまざまな工夫を凝らし、量産化した。
エクステリアは古典芸能の能面をイメージしたフォルムだった。
ノーズ部分には重量増加を承知でリトラクタブル式ヘッドライトを組み込んでいる。これはRX-7に始まるマツダのアイデンティティだったから、デザイナーはこだわった。
インテリアは日本の伝統的な茶室の作りをイメージしてデザインし、ソフトトップの開閉機構についても何度も検討を重ねている。オープンにしたときの快適性や機能性の追求に加え、盗難防止対策にも力を入れた。2人乗りだが、トランク容量にもこだわっている。
■最大の魅力は「意のままに走れる気持ちよさ」
コスト低減を求められたが、走りに関するメカニズムには多くの予算を投じた。そのひとつが、軽くて強靭なプラットフォームを新設計したことだ。
モノコック構造だが、駆動系の周囲にはパワープラントフレームを採用し、オープンカーの弱点である剛性を高めた。50:50の前後重量バランスと慣性モーメントの低減にも徹底してこだわっている。
サスペンションは4輪ともダブルウイッシュボーンだ。ブレーキはフロントにベンチレーテッドディスクを配した4輪ディスクとしている。ハンドリングは軽やかで、路面からの情報を濃密に伝えた。意のままに走れる人馬一体の気持ちよさ、これがロードスター最大の魅力だ。
新規のエンジン開発は、100億単位の投資が必要になる。そこでファミリアに使っている1.6LのB6型直列4気筒DOHCエンジンを改良して使うことにした。これを縦置きレイアウトに改造し、中央寄りに搭載したのである。うれしいのは、レギュラーガソリン仕様としたことだ。トランスミッションはルーチェの5速MTを流用した。
■当時にしても驚異的だった価格
小ぶりで愛らしいデザインのNA型ユーノスロードスターは、ベースモデルが170万円の驚異的な低価格で登場する。ディタッチャブルハードトップを選んでも200万円ちょっとのリーズナブルな価格設定だ。
先行発売した北米でマツダMX-5Miataは大好評を博し、ヒットを飛ばした。1989年9月に発売した日本でも、年内に9300台を超える登録を記録している。
日本では2シーターのオープンカーは売りづらい。しかも販売開始は秋だったから間もなく冬になる。新設の販売店だったし、デビュー当初は5速MT車だけの設定だったことも懸念材料だった。
だから苦戦すると思われたが、バブル景気の後押しも手伝い、ロードスターはフルオープンのスポーツカーとしては驚異的な販売台数を記録している。
オーストラリアに続き、1990年からはヨーロッパでも販売を開始した。依然としてお得意さんはアメリカだが、ヨーロッパでも人気が沸騰する。5速MTだけでスタートしたが、90年2月には4速ATを追加した。
AT車の追加によって日本でも90年は月販2000台ペースで売れ、通年では2万5000台を超えている。翌91年も好調で、2万2000台あまりの販売を記録した。2人乗り、しかもオープンのスポーツカーとしては驚くべき販売台数だ。
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