北海道留萌市在住の写真家・佐藤圭さんが撮影した貴重な動物、風景写真をお届けする週末連載。
第29回は、北海道に住む人でもほとんど見たことがないという「十字狐」です。
おなじみのキタキツネとは違う黒い毛のキツネですが、アイヌの人々の伝承には「神」として、猟師さんたちの言い伝えにはちょっとコワい動物として登場します。
写真・文/佐藤圭
「人に危機の到来を告げる神」
「北海道を代表する動物は何?」と聞かれたら、キタキツネと答える人が多いのではないでしょうか。観光で訪れて、見かけた人も多いと思います。
キタキツネといえば、鮮やかなオレンジ色ですが、北海道には黒いキツネも棲んでいるのをご存じでしょうか?
黒いキツネは、背中に十文字の模様があるのが特徴で、「十字狐」と呼ばれています。キタキツネに比べて数が少ないということもありますが、とても警戒心が強いので、めったに見ることができない、とても珍しいキツネです。
「十字狐」を知らず、初めて見た人は、犬だと思うようです。三毛狐と呼ばれることもあります。
「十字狐」は、その昔、キツネの毛皮が高値で売買されていた頃、養狐場に千島列島などから連れて来られたキツネの子孫だと考えられています。
「十字狐」は、背中に十文字の美しい模様があるため、その毛皮は特に高く売れたそうです。
より綺麗な十文字を出すために、赤いキタキツネと「十字狐」の交雑が行われました。
突然変異で出た稀少な色の毛皮は、やはり高く売れたようです。そのため、「十字狐」は、真っ黒な個体、キタキツネのような明るい色の部分が多い個体などさまざまな色の個体がいます。
毛皮が売れなくなり、養狐場が衰退すると、養殖されていたキツネたちは、こっそりと山に放されました。
そうして、野生にかえって交配を繰り返し、現在もたくましく生き延びていると考えられています。
ただ、そういう説とは別に、アイヌの伝説にも黒いキツネが出てきます。
アイヌの人々に「シトゥンペカムイ」と呼ばれる黒いキツネは、「人に危機の到来を告げる神」とされ、崇められてきました。
だから、僕は、養狐のために連れて来られる以前から、黒いキツネは北海道に存在したのではないかと思っています。
北海道の猟師さんの間にも「十字狐」に関する伝承があります。
その昔、黒いキツネを見つけた漁師が、その後を追って山に入ったそうです。キツネは、猟師との距離を保ち、木に隠れたり現れたりしながら、山の奥へ進んでいきます。
もう少しで追いつけそうなので、猟師は夢中になって追っていきました。そして、気付いたときには、自分がどこにいるのかわからなくなり、遭難してしまったそうです。
そのため、「黒いキツネを追うと命を奪われる」と言い伝えられていたそうです。
こんな言い伝えがあるくらいですから、とても頭がいいんでしょうね。
僕も、黒いキツネ「シテゥンペカムイ」を追うときは、慎重に行動し、深追いはしないように気をつけています。
佐藤 圭 kei satou
1979年、北海道留萌市生まれ。動物写真家。SLASH写真事務所代表。MILLETアドバイザー。
日本一の夕陽と称される留萌市黄金岬の夕陽を撮影するために写真家の道に入る。北海道道北の自然風景と野生動物を中心に撮影を続け、各地で写真展を開催し、企業や雑誌、新聞などに写真を提供している。
2018年、エゾナキウサギの写真「貯食に大忙し」で第35回『日本の自然』写真コンテスト(主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会)で最優秀賞受賞。
ウェブサイト:https://www.keisato-wildlife.com/
Facebook:https://facebook.com/kei.sato.1612
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