2021年12月に登場したマツダ ロードスターの特別仕様車「990S」。この「990」は「車重990kg」の「990」だ。車重1000kgを切る4代目(ND型)ロードスターが誕生したことになる。
さて、「クルマの軽量化」と一口に言うものの、それが及ぼす影響は単なる「速さ遅さ」だけの問題にとどまらない。軽量化はなぜ重要なのか? インディ500への参戦経験もある自動車評論家 松田秀士氏が、自身の経験を交えながら解説する。
文/松田秀士
写真/MAZDA、SUZUKI、LOTUS、ALFAROMEO、ALPINE
■軽量化が最大のテーマとなるレーシングカー
カーボンニュートラルが標榜される今、ICE(内燃機関)に求められるのは燃費がいいこと。燃費がいい=CO2排出が少ないとなる。
では燃費をよくするために重要なことのひとつに軽量化がある。また、軽くすれば燃費だけでなく運動性能も向上する。ダイエットサプリが人気のように、人もクルマも軽量化が重要なテーマなのだ。
そこで、軽量化が最大のテーマとなるのがレーシングカーだ。筆者自身、これまでにさまざまなレーシングマシンをドライブしてきた。
フォーミュラカーではF3、F2、F3000そしてインディーカーだ。フォーミュラカーの重量はだいたい500~750kg。ところが、市販車をベースにした改造範囲の狭いレギュレーションだったグループAだと1000kgを軽く上回った。
■たとえ100gでも、軽量化は速さに直結する
現在のスーパーGTでは1200kgという車重で、勝つとハンディキャップのバラスト(重り)を積まなくてはならない。
つまり、速いマシンは重くすることによってほかのマシンとのバランスを取って、抜きつ抜かれつのバトルを楽しく見せようという試みだ。
また、レーシングカーの重量はドライバーを含めた最低重量とするカテゴリーもあり、レース前の車検ではドライバーとレーシングスーツやヘルメットなどの装備品を含めた総重量を計量する。
この時、ドライバーはあらかじめたくさんの水を飲んで重量計に乗ることで総重量を重くすれば、少しでもレーシングマシンのほうを軽量化できるという裏ワザを使うこともある。
たとえ100gでも軽量化は速さに直結するのだ。
■レーシングカーの場合、車重は効率的にタイムを縮めてゆく目安となる
ところで、初めてドライブするレーシングカーの場合、必ず確認するのがその車重である。
なぜ車重をチェックするのかというと、各コーナー手前でのブレーキングを開始する場所をおぼろげに思い浮かべるためだ。
よくブレーキングポイントに看板などを目印にして「ここ」と決めつけてしまうと、レーシングカーの制動性能を把握することへの障害となりかねない。
だからといって予備知識なしではブレーキング距離を詰めてゆくために多くの周回を必要とする。
車重を知ることは効率的にタイムを縮めてゆく目安となる。そして、軽ければ軽いに越したことはないのだ。理由は簡単、慣性の法則を考えればわかることである。
■闇雲に軽量化すればいいというものでもない
もうひとつ大事なことがある。その車重の前後荷重配分だ。一般的にブレーキングでは荷重が前輪に移動する。つまり、後輪は軽くなりロックしやすくなる。後輪に少しでも荷重が残っていればリアタイヤがグリップし、リアブレーキの効きを期待できる。
ポルシェ911のリアエンジンはブレーキングという部分では理想的なのである。また、リアが重ければ前のめりの姿勢を強いられるハードブレーキングでも挙動は安定しているはずなのだ。つまり、どこが重くてどこが軽いのか? このことはクルマを走らせるうえでとても重要なことである。
ただ、軽いことは理想的だけれども、バランスを保っていてなおかつ軽量であることが望ましい。
その次に重要なのは重量物が低い位置に搭載されていること。
タイヤより遠い位置(つまり高い位置)にエンジンやトランスミッションなどの重量物が置いてあれば、当たり前だがテコの原理でタイヤやサスペンションにかかるモーメントが大きくなり、ロール量が増える。
車高の高いSUVが背の低いセダンなどに対してコーナリング性能が劣るのはこのようなことからだ。
ところで、マツダが昨年12月、ロードスターの特別仕様車「990S」をリリースした。
そのネーミングどおり1000kgを下回る990kg以下の車重を達成しているわけだが、注目すべきは車体そのものの軽量化もさることながら、ホイールに軽量なレイズ社製を採用していること。
さらにブレンボ製のブレーキディスクは、大径になっているけれども、やはり軽量化されている。
ではなぜこれらの軽量化に注目すべきなのかというと、もちろんバネ下重量の軽量化につながるから。バネ下重量の軽量化はバネ上重量の軽量化の4倍にも匹敵するといわれている。