中国製EVが一気にタイで販売の覇権を勝ち取ったワケとは?
そんな中で、中国系メーカーにとって「渡りに船」となったのがタイ市場だった。
中国とタイの間にはASEAN – 中国FTA(ACFTA)協定があり、クルマの完成車輸入関税はゼロ。それどころか、前記のとおり15万バーツ(約63万円)の補助金までもらえる。地理的な近さも手伝って、中国メーカーがワッと押し寄せたのも必然だった。
その結果が、タイにおけるEV販売台数の劇的な伸びだ。2023年に約9000台だったEVの販売は、2024年に約7万6000台とイッキに8倍以上に増加。その8割をBYD、NETA、GWMなどの中国系が占めている。
これによってタイ市場のBEV比率は前年の1.1%から9.8%へ急上昇。わずか1年で東南アジアのEV最先進国に躍り出てしまったわけだ。
じっさい、ぼく自身の体験としても、バンコクの交通シーンは1年ごとに明らかな変化が感じられる。いつも、スワンナプーム空港から市内へはGrab(ライドシェア)で向かうのだが、渋滞の高速道路で見かけるクルマに中国製が目につくようになったのがコロナ禍直前あたりから。
それが、去年、今年と加速度的に増加して、あっちにBYD、こっちにMG、そっちにORAといった具合で、そこら中で中国製EVを見かけるようになった。ライドシェアのGrabも、呼んだらMG4 エレクトリックが来たなんてケースが珍しくない。
しかし、自動車に限った話じゃないが、ここまで急激なシェア変動があると、必ずどこかに歪みが生じてその反作用が出てくる。
急先鋒の中国メーカーEV戦略を他山の石とすべき理由
案の定というべきか、激しい販売競争は値下げ合戦へとエスカレートし、たとえば約120万バーツだったBYD ATTO3は2年も経たずに約80万バーツへ値下げ。日本円換算で160万円以上という無茶なダンピングは既納ユーザーの怒りを買い、現地では訴訟沙汰にまで至っている。
この過当競争は中国系メーカー自身をも苦しめている。
タイ政府が課したEV補助金支給の条件は、販売台数の2倍を翌年現地生産するというもの。このため、各メーカーともこぞってタイ現地工場に投資し、2025年あたりからその生産が本格的に立ち上がる。
さすがに、いまでさえ供給過剰なところに、新たな現地生産分が加わったらどうなるかは明らかだから、中国系EVメーカー8社はタイ政府と生産義務の緩和に向けて話し合っているらしいが、けっきょくは中国国内の過当競争をタイに持ち込んだだけだった、というのがオチになりそうな気配なのだ。
というわけで、ぼくらがこのタイの現状から汲み取るべき教訓は、100年に一度みたいな大きな変革は焦らず慎重にやったほうがいい、ということ。
日経新聞などの一般紙は、しばしば「日本は後れをとった」的な記事を書くけど、クルマの電動化に関しては日本くらい慎重な方が正解なのでは?というのがぼくの意見でございます。
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