すべての自動車メーカーは自社製モデルをヒットさせたいと考えている。だが、なかには期待外れに終わったクルマも少なくない。今回は、失敗作の烙印を押されてしまった悲劇のクルマとその経緯を振り返っていこう。
文/長谷川 敦、写真/スズキ、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、CarWp.com
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●トヨタ iQ
日本の道、特に市街路は欧米のそれに比べて幅が狭いことが多く、いわゆる街乗りを中心に考えるならコンパクトなクルマが便利。
だからこそ我が国は軽自動車大国になったともいえるのだが、そんな状況に向けてトヨタが放った一手が超ショートホイールベースのiQ(アイキュー)だった。
2008年に発売されたiQは、1リッターエンジンを搭載し、車幅も約1.7mと立派な普通車だったが、注目すべきはその長さ。
なんと全長は3m弱で、これは一般的な軽自動車よりも短かった。
2mのショートホイールベースではあるものの、4人乗り(大人3人+子ども1人)の室内空間は軽自動車よりも余裕があり、乗り心地も普通車レベルを実現するなど、奇抜さだけのクルマではなく、充実した内容も持ち合わせていた。
トヨタはこのiQを新世代のシティコミューターとして定着させるべく、さまざまなプロモーション活動を行ったが、販売価格にお得感はなく、すでに巨大なシェアを獲得していた軽自動車の牙城を崩すことはできなかった。
そのため販売成績は伸びず、2016年には後継モデルを残すことなく販売終了となった。
安定志向が強いと思われがちなトヨタによる大胆な新戦略は、残念ながら不発に終わった。
●ホンダ e
現在、欧州を中心としたEV(電気自動車)への転換政策は、諸事情により足踏み状態になっている。
しかし、数年前まではEV化への勢いがあり、日本のメーカーもこの流れに乗ろうと新規のEVモデルを相次いで発表した。
ホンダの新型EV・e(イー)もそうした1台であり、欧州市場をメインターゲットに、2020年に華々しいデビューを飾った。
ホンダ初の量産型EVとなるeは、先に紹介したトヨタ iQ同様にシティコミューターとしての使用を想定して開発された。
それゆえに車体はコンパクトで、市街地での運転を想定して小回りの利く設計が盛り込まれているのも特徴のひとつ。
搭載されるバッテリーの容量は35.5kWhと、他社のEVに比べて小さい。
バッテリーサイズも車体をコンパクトにできた要因ではあるものの、最大航続距離は274km(JC08モード)に留まり、これも他社のEVよりも短めだった。
つまりeは街乗りやセカンドカー用途に特化したモデルだったが、それにしては車体価格が税抜き450万円と高く、これがセールスにも影響した。
ホンダ eは、日本国内は元より肝心の欧州でも売り上げを伸ばすことができず、2024年に販売を終えている。
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●マツダ MX-30
欧州市場での展開をメインに開発が行われ、2020年に販売が開始されたマツダのクロスオーバーSUVがMX-30。
このモデルは、欧州ではEVから、日本国内ではマイルドハイブリッドが発売されるなど、販売地域でパワーソースが異なる戦略が用いられた点でも注目された。
さらに国内向けには2023年にプラグインハイブリッドモデルが追加されたが、このモデルの発電用内燃エンジンにはロータリータイプを採用し、動力用ではないとはいえ、久々のマツダ製ロータリーエンジン復活も話題になった。
車体側でも観音開きタイプのドアを装備するなど、意欲的な試みも実施されたが、残念ながら市場には響かず、国内外での売り上げはかんばしいものにはならなかった。
不振を打開できすに2023年には早くも北米での販売が終了になり、欧州でも低迷状態が続いている。
マツダ初の量産型EVでもあるMX-30は、パワーソースや車体構成などにどっちつかずの印象が強く、それがそのまま売り上げに影響してしまった。
日本国内では継続販売が行われているものの、あまり明るい未来が見えてこないのが残念だ。
●スズキ キザシ
ジムニーやスイフトなど、個性的なモデルを数多く販売するスズキには、小型車を得意とするメーカーというイメージもある。
しかし、2009~2015年に上級セダンを販売していたことはご存じだろうか?
日本語の「キザシ(兆)」と名づけられたそのモデルを発売することにより、小型車メーカーのレッテルを払拭することもスズキの狙いのひとつだった。
だが、マーケットがスズキに求めていたのは上級セダンではなく、さらにキザシが発売された2009年には4ドアセダンの自体の日本国内人気が減退傾向になっていた。
結局キザシの販売実績は伸びずに2015年に販売が終了となり、今ではその存在を覚えている人も少ない。
キザシ自体は決して出来の悪いクルマではなかったが、メーカーの期待に応えることができなかったのもまた事実だ。
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