詳しくは知らないまでも、「なにやら高性能な夢の電池」としてクルマ好きには耳慣れた「全固体電池」。日本で開発が進められ、いまや実用化間近となっているが、この技術で、日本は世界をリードできるのか? 国沢光宏氏が解説する。
※本稿は2024年12月のものです
文:国沢光宏/写真:日産/予想CG:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2025年1月10日号
■国産「全固体電池」はモノになるのか?
多くの人が全固体電池を日本にとって「伝家の宝刀」だと思っているようだ。
確かに全固体電池は三元系リチウムイオン電池と同じく日本で開発が進められ、実用化の一歩手前まできている。
すでにトヨタと日産、ホンダはパイロットライン(先行生産設備)の設備投資を始めており、3社とも2027~2028年に本格生産開始を予定していると発表。これで電池の遅れを取り戻そうとしてます。果たしていかに?
一番の脅威は中国である。ここにきて全固体電池のひとつ手前の技術である半固体電池(硬いグミ~柔らかいプラスティックくらいをイメージしていただければよい)を2025年にも実車搭載するらしい。
もちろんBYDやCATLなど、電気自動車用電池でライバルを圧倒する企業だって膨大な開発予算を投じて全固体電池の開発を進めているから手強い。
関係者に聞くと、すでに総合的な技術開発で中国に先行されているらしい。
とにかく開発規模からして圧倒的に違うという。電極に使う素材のテストなど、100種類を試すより1000種類を試したほうが有利に決まっている。
しかも中国は多少失敗したってモウマンタイ(無問題)。一般道で試験している車両が燃えても大きな話題とならない。いろんな意味で我が国はハンデ戦になってしまう。
加えて三元系リチウムイオン電池や液晶、半導体などと同じく、技術で先行しても生産コストで厳しい。
我が国の政府を見ていると、日本の産業を伸ばそうとしない。むしろ農業に代表される国内産業を守るため、競争力の強い工業製品であれば輸出にブレーキを掛けようとする。燃料電池技術すら水素関連の規制緩和を10年以上行っていない。敵は内部にいるのだった。
ということで仮に全固体電池の開発に成功しても、輸出は制限されてしまうだろう。それでいて輸入は許す。中国のゴキゲンを取ろうとするためだ。
全固体電池だって国内市場向けだけの生産しかできなければ、大量生産する中国や韓国に勝てない。液晶や半導体を見ると台湾だって強い。そんなこんなで全固体電池がゲームチェンジャーになるかと聞かれたら「難しい」と答える。
どうしたらいいか? 我が国も欧米のように輸入制限をして中国の全固体電池をシャットアウト! そのうえで欧米に全固体電池の工場を作り、海外で販売する日本車用に供給するしかない。
ただ全固体電池の性能、皆さんの期待値に届くかとなれば、コスパの点で難しいような気がします。少なくとも今後10年の主力電池はリン酸鉄リチウムになると予想しておく。
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コメント
コメントの使い方全く同感です。全固体電池(完全な無機化合物だけからなる電極系)は基本技術は完成しても生産技術的には課題が多く、品質歩留まりとの闘いになるかと思います。
我が国の政策・・・悲しいですね!
仮に実用化の目途が立ったとして、一般家庭使用量の3日~1週間分の電力を5分で充電できるインフラは出来るのだろうか。