自動車の世界において、人気モデルのデザインが他メーカーに影響を及ぼすケースは昨今珍しくない。多くの場合、元になったクルマが高く評価されるが、例外的に模倣した側が名を残すこともある。大胆なフォルムで知られるフェラーリの名車「テスタロッサ」もそんな1台だったのだ。
文:越湖信一 写真:フェラーリ、ランボルギーニ
【画像ギャラリー】あの名車テスタロッサがカウンタックを真似しているって本当?(4枚)画像ギャラリー様々な逸話を生み出した2社のライバル関係
テスタロッサは今から40年ほど前に発表され、512TR、F512Mと進化を遂げた、当時のフェラーリのフラッグシップモデルである。12年間に渡るライフサイクルの中で累計1万台余りを記録する大ヒットモデルとなった。
位置づけとしては名車として名高い365GT4/BB、512BBの後継車にあたる。テスタロッサの開発に関する話をするのであれば、まず簡単に時代背景を語らなければならないだろう。もちろん、フェラーリとライバルであるランボルギーニの関係性についてである。
【画像ギャラリー】あの名車テスタロッサがカウンタックを真似しているって本当?(4枚)画像ギャラリー先進的なランボルギーニと保守的なフェラーリ
ご存じの通り、ランボルギーニは1963年に創業時から”打倒フェラーリ”をキーワードにマーケティングを進めていた。当時、エンツォ・フェラーリをはじめとするフェラーリ経営陣はこの“自称ライバル”の存在を全く無視していたそうだ。
しかし、ミウラが社会現象を起こすまでの人気となり、さすがに会社として静観し続けることも出来なくなり始めていた。
しかし当時のフェラーリは、革新的なランボルギーニとは対照的に、極めて保守的なクルマ作りが特徴であった。これはエンツォの頑固なクルマ作りの哲学が色濃く反映されていたからであり、それこそブランドの価値でもあったからだ。
ディスクブレーキの採用やミッドマウントレイアウトのレースカーへの採用にもエンツォは強く反対したというエピソードも残っている。 「クルマはフロントエンジンであるべきであり、馬車は馬が先頭でなければならない」と。それが創始者の考えだったのだ。
そんな保守的なフェラーリも、さすがにすべてにおいて斬新なミウラの後継たるカウンタックの登場に至っては、もうランボルギーニの革新的クルマ作りを無視できなくなったという。当時、フェラーリとピニンファリーナはニューモデル開発において一心同体であった。
ピニンファリーナはフェラーリのエンジニアたちを巻き込んでミッドマウントのディーノや、308GTBといったモデルの実現を図っていたのだ。
ちなみに、頑固なエンツォであるが、”ウェッジシェイプ(くさび型)”のガンディーニのスタイリングは、それなりに評価したようで、例外的にランボルギーニのイメージの強いベルトーネと手を組んでディーノ308GT4プロジェクトを進めていた。あのエンツォですら迷いはあった、ということだろう。
【画像ギャラリー】あの名車テスタロッサがカウンタックを真似しているって本当?(4枚)画像ギャラリーテスタロッサの特徴であるワイドボディはこうして生まれた
さて、ここからがテスタロッサの話となる。512BBの後継となる新モデルをフェラーリに提案するキーパーソンは、ピニンファリーナ開発部門のトップであるレオナルド・フィオラバンティであった。
彼はシャープなウェッジシェイプのスタイリングを追求するにあたり、フェラーリのエンジニアに強くアピールしたのがラジエーターの位置であった。
512BBはフロントに大型のラジエーターが置かれ、リアに位置するエンジンまでを長いパイプで繋いでいた。
そのため、フロントの造形には大きな制約を受けるし、パイプを通る熱湯でキャビンも過熱することになるというロードカーとしての弱点を生むこととなった。
それに対してラジエーターをリアホイールの前方にオフセットして装着するというアイデアがフィオラバンティの提案だった。
そうすれば長いパイプをフロントエンドまで通す必要はないし、フロントにラジエーターがなければ、デザインの自由度が増す。トランクの容量も増やせるし、良いことづくめだ。
しかし、リアホイール前にラジエーターを置くということはそれなりに横幅が広がるから、それをカバーするスタイリングを構築する必要があった。そんな要件を満たすために開発されたのが、リアがグラマラスに膨らんだテスタロッサのスタイリングなのだ。結果、当時としてはかなり思い切った広さの全幅が設定された。
そう、フロントからキャビンの比較的スリムなシェイプが、リアになるとグラマラスに膨らむという2つの要素を合体させたユニークなデザインが誕生したワケだ。
当初はラジエーターへエアを送る大きなダクト(穴)がボディにあったということだが、安全にかかわる法規からグリルが追加され、そのコンセプトはフロントとリアグリルにも活かされ統一感あるテスタロッサのデザインアイコンとなった。ちなみに、フィオラバンティは、保守的なエンツォに対して「これはF1の最新ソリューションを応用しました」と煙に巻いたそうだ。
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