2023年に試乗した水素エンジンハイエースがハイブリッド化されて帰ってきた。水素エンジンもハイブリッドで力強く、経済的に走れることを実感! 課題をあえてさらけ出しながら開発を続ける水素エンジンカーを取材した。
※本稿は2024年12月のものです
文:国沢光宏/写真:トヨタ、塩川雅人
初出:『ベストカー』2025年1月10日号
■燃料電池車と水素エンジン……同じ「水素」でもずいぶん違う
あれほど危険な電動キックボードを簡単に認可しているのに、水素ステーションのホースなんか、いまだに1000回で交換が義務づけられている。
ホース1本100万円! 1回あたり1000円にもなる。ちなみに韓国は2000回。アメリカなんか「漏れたら交換」でOK! ホースの安全性をもの凄く高く評価しているから、4万回を超えても問題ないという。
そんな状況でトヨタが水素エンジンにチャレンジしている。効率ということを考えれば燃料電池のほうが効率的。熱効率で考えると2倍くらい違う。ところが細密な構造を持つ燃料電池で使う水素は、不純物なしの純粋な水素でないとダメ。一方エンジンで燃やすなら、多少不純物があっても平気だ。
極端なことを言えば、燃料電池用の水素は電気分解が好ましい。水素エンジンだったら製鉄所で出てくる副生水素や(今は燃やして廃棄している)、褐炭という「石炭になりかけた素材」から取る水素で何ら問題ない。
もうひとつは熱。燃料電池の反応温度は70度くらいまでに抑えたい。されどパワーを出すと温度が上がってしまう。そいつを冷やすのが難しい。いわゆる「ラムダ」というヤツです。温度差がない。
エンジンだと燃焼室は1000度近い。そいつを水で冷やす。ラムダは900度近く、めちゃ冷える。さらにラジエターの水は110度くらいあるため、外気温50度でもラムダは60度ある。けれど70度と50度だと20度しかない。熱いお湯をぬるくするのに、冷たい水を混ぜたほうがいいというイメージでよい。
したがってオーストラリア内陸部の砂漠地帯だと燃料電池は冷えません。水素エンジンだと冷えます。
【画像ギャラリー】2025年は「水素元年」となる!? 難問をひとつひとつ解決しながら前進するトヨタの水素エンジン開発(10枚)画像ギャラリー■ハイブリッドが断然パワフル!
そんな前置きをしつつ今回試乗した水素エンジン車だ。
2023年は3.5L、V6ツインターボの水素エンジン車を作った。これだと航続距離200kmで、少しばかり心許ない。
今回試乗したモデルは燃費向上のためハイブリッドと組み合わせている。これだけで同じ水素タンクながら航続距離は250kmに伸びるそうな。もちろん250kmだって実用的とは言えない。
水素タンクの容量を2倍にすれば(ルーフなどに長いタンクを載せたっていい)、航続距離500km。充分実用的だ。しかも灼熱の地でフルパワーを出したって問題なし。ちなみに今回のハイエース、オーストラリアで実証試験を考えているそうな。
オーストラリアは褐炭が豊富。多少不純物のある水素ながら、エンジンで燃やすなら何の問題もない。エンジン技術のコストも燃料電池と比べたら圧倒的にリーズナブル。実用性は充分あります。
ハイブリッドなしモデルは、アクセルを踏んだ時のタイムラグが大きく、もの足りないレベルだった。なのに新型はアクセルを踏んだ直後にモーターがアシストするため、タイムラグを感じさせない。
そればかりか、けっこうパワフルな電池を積んでいるらしく、グイグイ加速する。市販車と言ってもさしつかえないレベル。
さらに燃費を伸ばそうとするなら、3.5L・V6ツインターボではなく、4気筒の2.5Lターボくらいでもよさそう。
開発担当者に聞いてみると「パワーユニットは用途によって変えるべきだと思います。街中の配達用なら小さい排気量でいいし、オーストラリアの都市間移動で使うのなら、ある程度のパワーが必要になってきます。今後、最適なバランスを考えていきます」と語る。
この技術、海外勢にやられないよう、しっかりと育てるべきだと思います。
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