破談になったけれど……ホンダが欲しがる日産の技術 日産が欲しがるホンダの技術

日産が欲しいホンダの技術、クルマ

ホンダ CR-V e:FCEV。燃料電池車なうえに充電も可能という日本では唯一のモデル。EVでの走行可能距離は心許ないが、電気と水素の二刀流というのが唯一無二
ホンダ CR-V e:FCEV。燃料電池車なうえに充電も可能という日本では唯一のモデル。EVでの走行可能距離は心許ないが、電気と水素の二刀流というのが唯一無二

 一方、日産の視点に立つと、ホンダには優れた技術が多い。先に述べたハイブリッドについては、ホンダのe:HEVであれば、全車にフットブレーキとの協調回生制御や高速巡航時に直接駆動する制御が備わる。

 日産はEVラインアップを急ぐあまり、ハイブリッドのラインナップがほとんどないことが北米市場での販売不振につながっていることもあり、日産はホンダのe:HEVをすぐにでも欲しいに違いない。

 ホンダは1.5L 、2L直噴アトキンソンサイクルエンジン、フロントドライブユニットおよび統合冷却システムをそれぞれ新規開発し、10%以上の燃費向上した次世代の小型車、中型車用のe:HEVユニットを2024年12月に発表した。ホンダはハイブリッド車を2030年までに年間130万台生産するとしている。

ホンダは小型、中型用の次世代e:HEVユニットを2024年12月に発表している
ホンダは小型、中型用の次世代e:HEVユニットを2024年12月に発表している

 燃料電池車も用意され、CR-Vにe:FCEVを設定している。e:FCEVは画期的で、充電機能と駆動用電池も併用することで、エンジンは搭載しないがプラグインハイブリッドのような使い方が可能だ。

 燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生させるが、水素を充填する水素ステーションは、全国に約170か所しかない。給油所(ガソリンスタンド)の約2万7000か所を大幅に下まわる。

 この状況を踏まえると、自宅などでの充電により、充填の面倒な水素を温存できる効果は大きい。万一、水素を使い果たしても、充電を繰り返しながら水素ステーションまで辿りつくこともできる。インフラの整っていない燃料電池車にとって、充電機能との組み合わせはメリットが大きい。日産としても充電可能な燃料電池車のe:FCEVは欲しいだろう。

 なおCR-Vのe:FCEVは、CR-Vにプラグインハイブリッドがあったから開発できた。この柔軟なホンダの発想力も、日産から見ると魅力だと思う。もともとホンダは発想力に富んだメーカーで、それは日産に限らず、ほかのメーカーも手に入れたいのではないか。

後席や荷室の下にあり、そのぶん床を高くしている燃料タンクを前席下へ移動することによって使える空間が劇的に拡大したセンタータンクレイアウト
後席や荷室の下にあり、そのぶん床を高くしている燃料タンクを前席下へ移動することによって使える空間が劇的に拡大したセンタータンクレイアウト

 ホンダの発想力が生み出した内容として、センタータンクレイアウトも挙げられる。軽自動車のNシリーズ、コンパクトカーのフィット、コンパクトSUVのヴェゼルに使われている技術で、燃料タンクを前席の下に搭載することにより、車内後部のスペースを広げている。

 コンパクトミニバンのフリードは、車内で移動しやすい真っ平らな床面にこだわったからセンタータンクレイアウトではないが、ミニバンに使うと3列目の床と座面の間隔を2列目と同じように十分に確保できる。かつてのホンダモビリオはセンタータンクレイアウトで、全長が短いから3列目は狭かったが、床と座面の間隔は十分に確保されて意外に快適だった。

 トヨタでは、センタータンクレイアウトと同様の効果を得るために、薄型燃料タンクを開発して初代シエンタに採用した。この技術は今でも現行シエンタで活用されている。

 以上のように、ホンダの欲しがる日産の技術よりも、日産が欲しがるホンダの技術のほうが多そうだ。そしてホンダが日産に差を付けた理由は、技術力よりも、判断する時の速度のように思える。

 そのためにホンダは、日産を完全子会社にして、意思決定も早めようとしたのではないか。逆にいえば、日産の社内的な風通しを改善して意思決定の速度を早めれば、今後も十分に戦えるように思える。

 そしてホンダと日産の戦略的パートナーシップは今後も継続される。ホンダと日産の間で、優れた相乗効果が生まれる可能性は十分にある。それは技術や生産だけでなく、販売におよぶかもしれない。トヨタの国内店舗数は約4400か所、ホンダは約2100か所で日産は約2000か所だ。ホンダと日産を合計すれば、トヨタと同等の販売網になる。

 例えば地域のニーズに応じて、ホンダと日産の軽自動車専門拠点を作るとか、カーシェアリングやレンタカーの共同ステーションを設けるなど、さまざまな展開を図れる。経営統合が破談したからといって、両社の関係が終わるわけではない。クルマ好きにとっては、これから面白いことが始まるのだ。

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