【ボディ剛性が高いと何がよくなる?】各社が新しいプラットフォームを採用する訳

プラットフォームがシャーシの基本性能を底上げ

2020年2月に発売予定のヤリスは新しいコンパクトカー向けTNGAのGA-Bプラットフォームでどのくらい変わっているのか楽しみだ
2020年2月に発売予定のヤリスは新しいコンパクトカー向けTNGAのGA-Bプラットフォームでどのくらい変わっているのか楽しみだ
ヤリスに採用されたGA-Bプラットフォームは主要な骨格を連結させることで、クラストップレベルの剛性を実現
ヤリスに採用されたGA-Bプラットフォームは主要な骨格を連結させることで、クラストップレベルの剛性を実現

 以前はニューモデルが登場すると、先代モデルに比べてねじり剛性が1.5倍、2倍向上した、といったようにボディ剛性の向上を謳う自動車メーカーも多かった。

 しかし最近は、そうした傾向は減っている。もはや十分にボディ剛性自体は高くなっており、先代モデルと比べてさらに高める必要性は少なくなってきていることが大きい。

 最近の傾向として単に高いボディ剛性を実現するだけでなく、燃費や居住性などといった従来から要求されてきた性能に加えて、足回りの性能や衝突安全性の確保など、様々な規制や性能をクリアさせる必要がある。それはプラットフォームの共用化によって達成されているのだ。

 最初にプラットフォームという概念を打ち出してきたのは日産だった。2002年に登場したK12マーチからルノーとのプラットフォームの共用を謳って、シャーシを作り込んだ。

 その後、2代目キューブやノートといったコンパクトカーのラインナップを充実させてきたが、この時にはまだ先のモデルまで見据えた開発をしたわけではなかったらしい。

 そしてマツダのコモンアーキテクチャ、VWのMQBなどといった海外メーカーもプラットフォームの構築に力を入れ始め、明確にプラットフォームにブランドや呼称を与えないメーカーも、プラットフォームを作り込み、質の高いバリエーションモデルを開発するのが基本になってきた。

 今ではトヨタのTNGA、ダイハツDNGA、スバルのSGP、日産CMF、スズキはハーテクトといったように、プラットフォームのブランド名を打ち出して自社の品質をアピールするようになった。

 それぞれの特徴を端的に紹介すると、まずマツダは第2世代に入って、スカイアクティブビークルアーキテクチャーという名称になり(マツダ3から)、より各部の剛性を高めあう構造へと進化して、ボディに伝わる振動を減衰して吸収させる能力も備えている。

カローラスポーツ、セダン&ツーリングはTNGAプラットフォーム、GA-Cを採用する。カローラセダン&ツーリングを含め、これまでのカローラとは一線を画す、ボディ剛性の高さを持つ。ハンドリング、乗り心地はかつてのカローラとは別モノだ
カローラスポーツ、セダン&ツーリングはTNGAプラットフォーム、GA-Cを採用する。カローラセダン&ツーリングを含め、これまでのカローラとは一線を画す、ボディ剛性の高さを持つ。ハンドリング、乗り心地はかつてのカローラとは別モノだ

 2012年にその構想が明らかにされたトヨタの新しいクルマ作り、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)。“もっといいクルマづくり”を標榜し、基本性能を突き詰めたプラットフォームをベースに複数車種で共用することによって、高いシャーシ性能(操安、衝突安全、居住性) を上げながら、サイズや駆動方式ごとに「一括企画」する戦略だ。品質の向上とともに、開発コストの低減も狙っている。

 TNGAは、2015年に発売された4代目プリウス(GA-C)を皮切りに、C-HRやカローラスポーツ(GA-C)、カムリ(GA-K)やRAV4(GA-K)、クラウン(GA-L)、カローラセダン&ツーリング(GA-C)が続々と登場し、最新モデルは2020年2月にデビュー予定のヤリス(GA-B)だ。

 FFベースが3種類(GA-B、GA-C、GA-K)、FRベースが1種類(GA-L)、合計4種類のTNGAが出揃ったことになる。

 また、量産EV用プラットフォームは、ミッドからラージクラス用をスバルと、スモールクラス用をダイハツと共同開発している。内燃機関搭載車用が4種類、量産EV用が2種類、これが向こう10年のトヨタのラインナップのベースとなる。

4代目プリウスから採用されたTNGAプラットフォーム。 骨格の見直しや高張力鋼板の使用拡大など、TNGAプラットフォームは劇的進化が著しい。モデルによってはLSW(レーザースクリューウェルディング)や構造用接着剤使用拡大などの新技術も積極採用され、力の流れや連続性にもこだわった設計となっている

 ダイハツのDNGAはトヨタのTNGAに近いもので、軽自動車からコンパクトカーまでの共用部分をしっかりと作り込むことにより、軽自動車の品質を高め、コンパクトカーは軽量化にも貢献できるプラットフォームとなっている。

車重を980kgという軽量&高剛性ボディのダイハツロッキー&トヨタライズ。DNGAプラットフォームを採用したことにより、高剛性かつ軽量、サスペンションがよく動く走りの気持ちいいクルマに仕上がっている。DNGA第一弾はタント、第二弾がこのロッキー&ライズ
車重を980kgという軽量&高剛性ボディのダイハツロッキー&トヨタライズ。DNGAプラットフォームを採用したことにより、高剛性かつ軽量、サスペンションがよく動く走りの気持ちいいクルマに仕上がっている。DNGA第一弾はタント、第二弾がこのロッキー&ライズ
タントから始まったダイハツのDNGAプラットフォーム。考え方や作り方を工夫することでコストを抑えつつ、この先10年は使えるという高性能さと、軽自動車から小型車まで使える懐の広さを持つものとなっている。 骨格を前から後ろまで繋げることで操安性を向上させている。また、適所を薄板化することで軽量化も実現している
高強度材料を使う特に部位を増やしている

 スバルのSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)もTNGAに近い思想だが、車格やパワーユニットの種類が絞り込まれるぶん、より基本骨格としてのプラットフォームの影響力が大きくなっている。

 日産のCMF(コモン・モジュール・ファミリー)は、プラットフォームをエンジンコンパートメント(エンジンルーム)、フロントアンダーボディ、コックピット、セントラル&リアアンダーボディ(後席及び荷室)のブロックに分けたモジュール構造として、その組み合せを変えたりセントラル&リアアンダーボディの長さを変化させることでさまざまな車種を作り出すことを可能にした、非常にスケーラブルなプラットフォームといえる。

 こちらはセグメントを超えた組み合せも行なうことにより、さらに幅広い展開を可能にしている点が特徴的だ。

 スズキのハーテクトは、とにかく軽量化に力を入れている。アルトは140kg減、スイフトは120kg減と前のモデルは何をしていたんだと思うほどの軽量化である。高張力鋼板鋼板の採用だけでなく、形状的に無駄があった部分を徹底して削ぎ落とした。

 軽量化は燃費や制動力性能に貢献するばかりか、衝突安全性にも影響する。衝突安全性を高めるには、衝突時の運動エネルギーを低減するための軽量化も大事なのだ。

軽量高剛性な新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」の採用したスイフトスポーツは旧モデル比で70kgもの軽量化を果たした
軽量高剛性な新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」の採用したスイフトスポーツは旧モデル比で70kgもの軽量化を果たした
スズキの次世代プラットフォーム、ハーテクトは屈曲した骨格を最短距離で滑らかにつなぐことで、合理的かつシンプルな形状としている。またサスペンション部品も骨格の一部として利用。さらに骨格同士が結合する強い部分を部品の固定に利用することで補強部品を削減。これらにより、ボディ剛性を向上させながら軽量化を実現
スズキの次世代プラットフォーム、ハーテクトは屈曲した骨格を最短距離で滑らかにつなぐことで、合理的かつシンプルな形状としている。またサスペンション部品も骨格の一部として利用。さらに骨格同士が結合する強い部分を部品の固定に利用することで補強部品を削減。これらにより、ボディ剛性を向上させながら軽量化を実現

 このようにそれぞれに特色はあるものの、総じて社内のラインナップに複数導入することにより、開発や生産のコストを抑えながら、優れたクルマを実現しやすい基盤技術になっている。

 早い話、ハンドリングが良くて乗り心地も快適、さらには衝突安全性も高い、というユーザーの要望に応えるためには基本骨格であるボディの作り込みが重要で、それを車種ごとに無計画に開発していたものを、先々まで考えて基本のシャーシをしっかり作り込んでいるのが、プラットフォームなのだ。

 ガチガチに固めてやればいい、というものではない。それでは車重が増加して重くなってしまうので、燃費も悪くなるし、衝突安全性も低下する。

 それに車種によってはある程度ボディのしなりも必要で、それがしなやかな走りを生んで、乗り心地やハンドリング性能にいい影響を与えることもある。

 ボディに求められるいくつもの要素をすべて高い次元で実現する、効率の良い方法がプラットフォームなのである。

次ページは : 軽量化のための素材や加工法、生産方法の開発など日々進化している

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