「2025年4月1日以降はMT免許が取れなくなる?」とネットで噂が流れている。これは少々誇張した情報なのだが、今後MT免許取得のハードルが著しく上がることは間違いない。かつて指定自動車教習所で指導員として運転指導を行っていた齊藤優太氏がレポートする。
※本稿は2025年2月のものです
文:齊藤優太、ベストカー編集部/写真:トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スズキ、ダイハツ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年3月26日号
2025年4月1日からのカリキュラムの変更点
2025年(令和7年)4月1日からMT免許の教習カリキュラムが変更される。これまでは普通免許を取得する際、MT(限定なし)とAT限定を選択できたが、4月1日から原則としてAT限定のみとなる。
そのため、MT免許を取得するために教習所に入校しても、AT車で場内教習と路上教習を受けることになる。
新たなカリキュラムでMT免許を取得する場合、AT限定普通免許の教習を修了し、卒業検定を受験して合格した後に、限定解除の教習を受け、限定解除の審査に合格するという流れになる。
インターネットの情報などでは、限定解除の審査に不合格になると、AT限定免許の卒業検定合格も不合格扱いになるという情報が流れているようだが、卒業検定と限定解除の審査は別の扱いになるため、限定解除の審査に不合格になったとしても、AT限定免許の卒業検定の合格が取り消されることはない。
【画像ギャラリー】細々と……ですが存在します!! 自動車メーカー各社がラインナップするMT設定を残すクルマたち(16枚)画像ギャラリーMT技術をわずか4時限で習得!?
新たなカリキュラムの施行により、MT車の基本操作や基本走行の練習は、限定解除の教習時限(最短4時限)のみとなる。
この最短4時限のうち1時限は「みきわめ」の時間になるため、実際の練習時間は最短3時限だ。この3時限で行う教習内容は、
(1)クラッチペダルやチェンジレバーの取り扱い
(2)発進および停止
(3)変速操作
(4)ブレーキ操作
(5)坂道の通過(上り坂と下り坂におけるギアの選択とエンジンブレーキの使い方)
(6)狭路(S字・クランク)の通過
(7)坂道発進
(8)踏切の通過
(9)方向変換および縦列駐車
の9項目。MT車の運転を日常的に見る機会が少ない現代において、これらの9項目の内容をわずか3時限という短い時間で習得できる可能性は低いだろう。
加えて、限定解除の教習および審査は、すべて教習所内で行われる。よって、新たなカリキュラムでMT免許を取得した場合、教習中にMT車で路上を走ることなくMT免許を取得することになる。
教習所内のコースは、教習所によって形状が異なるが、第1段階(基本走行)の教習生が走行する教習所内において、MT車で入れられるギアは1速または2速、よくても3速までとなるだろう。
しかし、実際の道路では、3速以上のギアに入れるシーンがあるだけでなく、巡航時には5速や6速にまで入れる。このような練習をせずにMT免許を取得しても路上を走れるようになるとは考えにくい。
【画像ギャラリー】細々と……ですが存在します!! 自動車メーカー各社がラインナップするMT設定を残すクルマたち(16枚)画像ギャラリーなぜカリキュラムが変更されるのか?
では、なぜ運転免許取得のためのカリキュラム変更が行われたのだろうか?
このようなカリキュラム変更が行われた背景には、運転免許取得の効率を上げるという目的があると考えられる。
また、この法案のパブリックコメントの結果を見ると、「AT車はMT車より事故の発生率が高いのではないか」という意見が寄せられているが、警察庁は「AT車の事故はMT車のものより高いと認められない」と回答している。
加えて、令和4年中に新たに普通免許試験に合格した人のうち、約7割がAT限定普通免許であることも踏まえ、カリキュラム変更の法改正がされたということがパブリックコメントの結果に明記されている。
* * *
齊藤氏も本文中で指摘しているが、最大の問題点はMT免許が取りにくくなることではなく、路上講習をMT車で一度も経験することなく公道で運転しなければいけない点にある。
免許を取得して初めて公道を走った時に怖かった経験をお持ちの方なら、カリキュラムの変更がどれだけ危険なことなのかわかるハズだ。改悪以外の何物でもない。
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コメント
コメントの使い方例えば免許とりたての半数とかがMT乗るのなら、改悪でしょう。しかし実際は1%以下。
その1/100未満のMT好きは、自分がマイノリティである自覚を持って、自ら練習や経験を積みなさいということ。サーキットでも練習会や講習会やってます。
免許はあくまで書類上の許可だけ。AT限であろうと、公道走る能力が足りないと自覚したなら、自分で準備するんですよ。当たり前です