世界初の圧縮着火ガソリンエンジンとして鳴り物入りで登場した「SKYACTIV-X」が生産終了になると報道された。ここでは、これまで鳴り物入りで登場しながら消えていったマツダの技術を振り返ってみる。
※本稿は2025年2月のものです
文:片岡英明/写真:マツダ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年3月26日号
マツダのエンジン技術挑戦史
マツダは進取の気性に富む自動車メーカーだ。3輪トラックを生産していた時代から、独自の新機構を積極的に採用した。
初の4輪乗用車として開発したR360クーペは4サイクルのV型ツインの凝ったメカニズムだし、マグネシウムやアルミなどの軽量素材もふんだんに使っている。
そして最たるものがロータリーエンジン(RE)だ。世界で初めて2ローターREの実用化に成功し、コスモスポーツに搭載した。その後もサバンナや後継のRX-7、RX-8などの傑作を生み出している。
REの陰に隠れて目立たないが、レシプロエンジンにも進歩的な作品が少なくない。1987年にカペラに積まれてデビューし、話題をまいたのがプレッシャーウェーブスーパーチャージャー(PWS)である。
セル内圧力波式過給器とかコンプレックス過給器とか呼ばれ、回転域の小さいディーゼルエンジンとの相性は素晴らしかった。応答レスポンスが鋭く、パワーとトルクが瞬時に立ち上がる。
魅力的だったが、きちんとメンテしないと性能を維持するのが難しかった。そのため1990年代早々に姿を消している。
ミラーサイクルと呼ばれるアトキンソンサイクルエンジンを最初に実用化したのもマツダだ。1993年にユーノス800に搭載して発売した。
実質的な吸気量を少なくすることによって膨脹比を圧縮比より大きくして効率を高める理想のエンジンだ。構造が複雑で制御も難しいから短命に終わったが、今では多くのメーカーが導入している。
REの集大成は、量産車で世界初の3ローターREをユーノスコスモに搭載したことだ。単室容積654ccのREを3つ重ねて3ローターとした。パワフルだし無類に滑らかだったが、燃費が悪くて短命に終わる。
【画像ギャラリー】今も続く技術からあえなく消えていった技術まで……常に挑戦を続けるマツダの技術(24枚)画像ギャラリーマツダ渾身の力作「SKYACTIV-X」は消えてしまうのか?
革新的な圧縮着火ガソリンエンジンの「SKYACTIV-X」は2019年12月にマツダ3に搭載されてセンセーショナルなデビューを飾った。これは世界で初めて「SPCCI」と名付けられた火花点火制御圧縮着火技術を採用した2L・4気筒エンジンの愛称だ。
ガソリンエンジンの美点である高回転の気持ちいい伸びとパンチ力、ディーゼルエンジンのような実用域の豊かなトルクを高いレベルで両立させた。
が、価格は張るし、パワフルさと実用燃費もそれなりにとどまる。魅力を見出しづらいため、今や消滅の危機だ。
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