日本でも近々BEVモデルを展開すると噂されているスズキ、実は過去には水素エンジンや燃料電池車など、水素エネルギー車にも積極的に取り組んでいた。小型車×水素となると現在ではあまりイメージがないかもしれないが、実は1970年代から水素をエネルギー源とするスズキ車が研究車両としてあったのだ。
文/写真:西川 昇吾
【画像ギャラリー】さすが二輪四輪両”刀”メーカー! スズキの水素エンジン車開発史!(12枚)画像ギャラリーセルボに2ストローク水素エンジンを搭載!
1970年代の水素エンジン搭載車はスズキが開発していた訳ではない。1979年に登場したセルボの水素自動車は、日本で初めて水素燃料エンジンの運転を行った武蔵工業大学(現東京都市大学)が製作したものだ。
このクルマは「武蔵3号」と名付けられていた。3号と名にあるように、武蔵工業大学が製作した水素エンジン車としては3台目になる。
セルボがベース車に選ばれたのはいくつか理由があった。1つが2サイクルエンジン搭載車であるため、それまでの課題であったバックファイヤー現象や出力不足を解決できること。そしてもう1つがエンジン近くに水素タンクを搭載できるということだろう。
実車を見ると運転席ギリギリまで水素タンクが搭載されているのが分かる。この武蔵3号はなんと液体水素を使用していた。そのため液体水素用の供給ポンプなどを装備していたが、それらの燃料系のレイアウトもセルボならばやりやすかったのではないだろうか。
この武蔵3号にはスズキも協力的で、当時はスズキの竜洋テストコースでテスト走行をし、時速118キロを記録している。当時研究メンバーだった学生がスズキに技術者として入社するなど、スズキとの関係性がとても深い1台だ。
現在はスズキ歴史館に展示されているほか、1990年に発行されたスズキの70年史にも記載されている。
燃料電池にも積極的
そしてスズキとしては燃料電池車にも取り組んでいた。その1つが2003年登場のワゴンR FCVだ。エンジンルームに燃料電池スタックやモーターを配置し、燃料タンクに位置に水素タンクを配置、これにより十分な室内空間と荷室空間を確保していた。当時の航続距離は130kmであった。
より凄いのがこの後に登場した「MRワゴン-FCV」だ。GMと共同開発したこのクルマは、なんと700気圧のシステムを搭載していた。700気圧のシステムと言えば現行のトヨタ MIRAIと同じである。試作車とはいえ、スズキの技術力の高さを感じさせる。なおMRワゴン-FCVの航続距離は200kmまで伸びていた。
そしてバイクでも燃料電池に挑戦。2007年の東京モーターショーで燃料電池のコンセプトモデルクロスケージを発表。燃料電池ユニットには燃費性能と素早い起動が魅力であるイギリスのインテリジェントエナジー社のものを採用していた。その出で立ちはまさに未来のバイクといった雰囲気だ。
2011年にはスクーターの「バーグマン フューエルセル」が世界初となる「欧州統一型式認証」を取得。2017年には型式認証を受けて日本の公道でも走行可能となっている。
70MPa(700気圧)、10Lの水素タンクを搭載し航続距離は120kmとなっている。小型モビリティでの水素利用にも積極的にスズキは取り組んでいるのだ。
2023年にはカワサキ、ホンダ、ヤマハと共に小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE)」の設立に向けて経済産業省の認可を受けている。
小型モビリティでも水素を活用する方針がどのように動いていくのか注目したいと感じさせるニュースであった。
これまでの研究開発でスズキが培ってきた水素へのノウハウを小型モビリティへどのように生かしていくか期待したい。
コメント
コメントの使い方