燃費性能や加速性能を高めるため、今や当たり前になった多段化トランスミッション。4速や5速が普通だった時代から、いまや10速ATが量産車に搭載される時代に。でも、そんなに段数って本当に必要なのだろうか?スポーツカー、街乗り、サーキット、それぞれの最適解を探っていく
文:中谷明彦/写真:Porsche AG、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】スポーツカーだけではなくSUVも!! 多段化トランスミッションを採用するクルマたち(6枚)画像ギャラリー多段化トランスミッションは本当に必要か?
近年の自動車業界では、トランスミッションの多段化が著しく進んでいる。かつては4〜5速ATが一般的であったが、今や8速、9速、さらには10速ATまでもが量産車に搭載される時代となった。
ポルシェ911のような高性能スポーツカーに至っては、MTであっても7速を備えるなど、「多段化」がひとつの技術トレンドとして定着してきた。果たしてこのような多段トランスミッションは本当に必要なのか?それは「用途と目的による」のだ。
まず、トランスミッションの多段化は、基本的に燃費性能や動力性能の最適化を目的としている。エンジンというのは回転数によって出力特性が変化する機械であり、最も効率の良い回転域(いわゆるスウィートスポット)を維持しながら走ることができれば、燃料消費を抑えつつ、必要な加速力を得ることができる。
ギア段数が増えれば増えるほど、より細かくエンジン回転を制御することができ、結果として燃費とパフォーマンスの両立が可能となるわけだ。
近年は、ダウンサイジングターボエンジンの採用が進み、トルクバンドの幅がより低回転域かつ狭くなっている傾向がある。つまり、最適な回転数を維持するためには、より多くのギア段が必要となるのだ。10速や9速のATやDCT(デュアルクラッチトランスミッション)が登場しているのも、このようなエンジン特性に対応するための一つの技術的回答である。
また、環境規制への適合という側面も無視できない。WLTCモードといった燃費基準で好数値を引き出すにためには、極力低回転域での巡航を可能にしなければならない。
そのため、10速ATでは8速から10速のギア比が「超オーバードライブ」として設定され、100km/hでの巡航時にエンジン回転数を1500rpm以下に抑えるようなセッティングとなっている。中には10速を選択できる最低回転の1500rpmでは時速120kmをオーバーしてしまい、国内では使える場所がないケースもあった。
また、サーキット走行やスポーツドライビングといった、走行性能を最重要視するシーンにおいては、多段化が必ずしも有利になるとは限らない。
むしろ、シフト操作の頻度が増え、ドライバーにとって煩わしさを感じる場合もある。サーキットテストで10速ATを搭載した車両をドライブすると、頻繁な変速により、ドライバビリティに一種の「間」を感じてしまうこともある。
機械としては優秀であっても、人間の感性にフィットしなければ、真の意味でのドライビングプレジャーは得られない。
ポルシェが7速MTを採用する狙いとは?
ここで興味深いのが、ポルシェ911に代表される高性能スポーツカーのトランスミッション戦略である。例えば911カレラは7速MTを搭載しているが、これは燃費と動力性能のバランスを取りつつも、あくまで“運転の愉しさ”を残すための設計思想によるものだ。
実際、7速のうち6速までは加速重視のクロスレシオ、7速は高速巡航用のワイドレシオとされ、サーキット走行では基本的に1〜6速で走らせる設計となっている。つまり、段数そのものではなく、「どう段数を活かすか」に応えているのだ。
一方で、ランサー・エボリューションのマニュアルトランスミッションには6速仕様と5速仕様があり、5速はクロスレシオでサーキット専用とも言えるスペックだった。
さらにクロス・ロー/ハイと選択できる世代も存在した。最高速は5速で達するので、オーバードライブの6速は必要ない。6速を備えることで重量も増し、機械抵抗も増えるので省いてしまうというモータースポーツ優先思考だった。ちなみにランエボ最終モデルとなったⅩではATは6速DCTであり、MTは5速クロスのみの設定だった。
レース現場ではフルATは禁止されていて、パドルシフトのマニュアル操作が基本となっている。パドル操作ではシフトミスが激減し、エンジンやミッションのトラブルを回避できるメリットがある。
いまだにHパターンのMTを駆使して走るカテゴリーでは前時代的なシフトミスによりオーバーレブやクラッチのトラブルなどが引き起こされ、レースを走っている人ならHパターンのMTに性能的メリットを感じないだろう。MTの操作を「運転の愉しみ」と言っていられるのは限界走行をしないレベルの話なのだ。
逆に街乗りや長距離巡航といった一般的な使用環境においては、多段ATの恩恵は大きい。実際、10速ATを搭載する車両では、滑らかで静粛性に優れた走行フィールが実現されている。緻密なキャリブレーションが行われて変速ショックは極小となり、しかもギアのつながりが滑らかであるため、まるでCVTのようなシームレス感すらある。









コメント
コメントの使い方今主流のHパターンでのMTだったら、間違えちゃうかもしれませんね。
バイクみたいにI型にしてしまうか、トラックみたいにボタンを押してのHi/Lo切替が付属するかすれば多段化の役は果たせますが、多分主流派でないことによるコスト増とテクニカルでなくなる事の楽しさ減を許さないでしょうね。
モータースポーツを公道にもってこようとするな
迷惑だ
単純に排気量が大きかったり過給機の大トルクに対応できるCVTを作ることが不可能だから。