2025年4月、全日本空輸(ANA)が、ルフトハンザテクニックが開発した機能性表面フィルム「AeroSHARK」を実装した旅客機(ボーイング777型機)をアジアで初めて就航することを発表した。これを受けて今回のテーマは自動車への実装の可能性について考えてみたい。
文:デグナー12(Team Gori)/写真:AC、スバルテクニカインターナショナル(STI)、トヨタ
空気抵抗低減により燃料消費量とCO2排出量を削減
ANAの発表によると、このフィルムは空気抵抗を低減する効果を狙って、サメの肌に見られる微細なリブレット構造を模倣したもの。幅約1メートル×高さ約0.5メートルに、50マイクロメートル程度の微細加工が施されたシートを機体表面に貼付することで、燃料消費量を年間約250トン、CO2排出量を約800トン削減できるという。
サメ肌の空気抵抗低減の原理を調べてみたが、空気の中で物が動く際に表面に生じる小さな空気の渦が関係していて、サメ肌のような細かい溝があると、渦の影響を受ける面積が減少し、空気抵抗が減るとされている。
実際、2000年のシドニー五輪では、このサメ肌の原理を応用した水着が登場。全身を覆うフルスーツの形状は斬新ながら、この水着の着用によって記録ラッシュだったことを覚えている方も多いだろう。この技術が自動車に応用された場合、エンジン車であれば燃料消費量削減、EVカーであれば航続距離延長という形でメリットが得られる可能性は高い。
クルマに応用する場合の課題は耐久性とコストか
一方でクルマへの展開にはいくつかの課題があり、そのひとつが耐久性。航空機と異なり、クルマは泥はね、雨水、洗車など多様な環境に晒される。微細なリブレット構造が維持できるかが鍵。航空機の航路ももちろん過酷ではあるが、使用環境が変わればそれに合わせた仕様変更も必要になるだろう。
2つ目はコスト。広い面積に施工する場合の材料費・施工費は無視できない。特に大衆車への普及にはコストダウンが不可欠。航空機のサイズや航続速度を考えれば1%の変化でも燃費改善効果は大きいが、クルマに置き換え実費で考えればまだコストパフォーマンスは充分ではないだろう。
実はモータースポーツという限られた条件下だが、サメ肌が実車へ採用された事例がある。それが2019年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦したスバル WRX STI。風洞実験では変化を確認できたものの、実証も含めて明確な結論を出すには至っていないそう。いずれにしても発展途上で、今後が楽しみな技術であることには変わりない。
空力改善は自動車メーカーの関心領域
現在、自動車分野ではEV化に伴い「空力性能の最適化」が重要テーマ。Cd値を0.20以下まで追い込む新型EVも登場しており、さらなる改善の余地は小さくなりつつある。その中で「表面フィルム」という新しいアプローチは、追加の空力改善手段として注目を集める可能性がある。
特に高速長距離走行が多い欧州市場やEV分野においては、航続距離の改善が商品力に直結する。自動車業界がANAとルフトハンザテクニックの取り組みに関心を寄せるのは自然な流れだろう。






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