【生物を真似たクルマの新技術がトレンド!!】はたしてスバルSTIのサメ肌塗装は効果があるのか?

 扇風機のファンは蝶のアサギマダラの羽、新幹線の低騒音パンタグラフはフクロウの風切り羽、雨が降ると自動的に汚れが流れる外壁材はカタツムリの殻から、というように、生物の形態からヒントを得た技術が取り入れられていますが、その技術はバイオミミクリー(生物模倣)と呼ばれています。

 さて、このバイオミミクリーですが、実はクルマにも多く採用されています。

 最も新しいのは、今年のニュルブルクリンク24時間レースに参戦する、スバルWRX STIニュルブルクリンク24時間レースカーにはサメのようなザラザラした肌のマット塗装が施されています。

 サメ肌塗装をなぜクルマの塗装に採り入れたのでしょうか? はたして、どれほどの効果があるのでしょうか? 

 さらにバイオミミクリーを採り入れたほかのクルマについても紹介していきましょう。

文/奥野大志
写真/ベストカーWEB編集部 スバル ホンダ Adobe Stock


■WRX STI NBRレースカーをサメ肌塗装にした理由

富士スピードウェイにてシェイクダウンが行われたWRX STI NBRレースカー2019 年モデル。 今年のニュルブルクリンク24時間レース日程は6月20~23日。ドライバー陣はカルロ・ヴァン・ダム選手、ティム・シュリック選手、井口卓人選手、山内英輝選手

 2019年3月10日、富士スピードウェイで行われた「STIモータースポーツデイ」でシェイクダウンされた、2019年のSTIのニュルブルクリンク24時間レース参戦マシン、WRX STI。

 世界一過酷なレースで得たノウハウを市販車にフィードバックするために、車体にはさまざまな改良が行われているが、なかでも今回注目したのが、WRX STIに施された「サメ肌塗装」。

 塗装面に凹凸を設けることで空気を整流。空気抵抗を低減しているという。一体どういう塗装なのだろうか?

■サメ肌の部品を作って風洞実験したところ変化を確認

2000年のシドニー五輪に登場した競泳水着「ファーストスキン」は サメの皮膚表面の形状をヒントにした「表面リブレット形状」 を採り入れており、12の世界記録を生んだ。同じ技術というわけではないがWRX STIのニュルブルクリンク24時間レース参戦マシンもサメの皮膚形状をヒントにマット塗装が施されている
実際に触ってみたが、たしかに表面がザラザラしていた

 この塗装はSTIの依頼を受けた塗料メーカーが供給したもの。スポンサーロゴを含むボディ全体にマット塗装が施されており、表面には細かい凹凸が設けられている。

 それが特に強いのがルーフ前部とフェンダー上部のルーバー、ドアミラー。この3か所にはスポンサーロゴを貼っていないため、他のスペースと比べて凹凸を強めている(高い凹凸があるとスポンサーロゴを貼ることができない)。

見た目はマット塗装そのもので触らないとサメ肌とわからない

 サメ肌塗装を選択した理由について、STIの辰己英治総監督は、

「毎年何か進化させられる部分はないかと考えているのですが、そこにカラーリングの話も入ってきました。

 ゴルフボールが飛ぶ原理に着目し、調べていったのですが、大昔には傷がついていたほうが遠くに飛ぶという話もあったようです。

 禁止になった競泳水着の例もあり、クルマにも何かあるんじゃないかと。サメ肌の部品を作って風洞実験したところ変化が確認でき、ルーフではダウンフォースも変わりました。見た目のカッコ良さにも私たちの意気込みが込められています」。

 とはいえ、サメ肌塗装による変化の理屈や詳細なデータ、ダウンフォースについて明確な答えは得られていないという。

 実走テストも行ったが、スピードアップしているわけでもない。確実にわかっているのは変化があるということ。

「魚は水という大きな抵抗のなかで、あれだけ泳ぐことができます。たぶん悪い方向には行かないと思うので、将来的には1年後か5年後かわからないですけど、研究していきたいですね。富士で100分の1秒でも速くなればいいんですから」(辰己英治総監督)。

SP3T2クラスで6度目の優勝を目指すSTIチーム総監督の辰巳英治氏

 辰己総監督によると、サメ肌塗装は塗り方が難しく、コスト増大は確実というところだが、多くのクルマ好きをひきつける話であることは間違いない。明らかな効果が認められ、市販車に実用化されれば、大きな話題になるのは間違いない。

 2019年のニュルブルクリンク24時間レースは6月20日~23日。6度目のクラス優勝はもちろん、サメ肌塗装に関する研究が進むことも期待したい。

■自動車業界ではバイオミミクリーがちょっとしたトレンドに

 サメ肌塗装のように生物からインスピレーションを得たテクノロジーを「バイオミミクリー」(生物模倣技術。ミミクリーは模倣の意)と呼ぶが、はたして自動車に取り入れられているのだろうか?

 自動車業界以外でのバイオミミクリーの実例は、蚊の針と似た構造を持つ痛くない注射針や、カタツムリの殻の原理を応用した汚れが落ちやすい外壁などがある。

 身近なところでいえば、カワセミのくちばしをヒントにデザインした500系新幹線もその一例。

 実は今、自動車業界でもバイオミミクリーがちょっとしたトレンドになりつつある。自動車業界のバイオミミクリーの実例を紹介しよう。

■シャークフィン(サメ)

写真のシャークフィンアンテナはWRX STIのもの

 シャークフィンは空力パーツのひとつで、形状がサメの背びれに似ていることからこう呼ばれる。

 F1やスーパーフォーミュラ、WECなどのレーシングカーの背中に設けられている。

 フロントから流れてきた空気を整流し、リアウイングの空力効果を高める。スポンサーロゴを貼るスペースが増えるため、マシンの美観向上にも一役買っている。

 レーシングカー用のほかに、シャークフィン型のラジオアンテナもあり、空力性能とルックスを両立したものとなっている。

■エアロスタビライジングフィン(魚)

86用のトヨタ純正エアロスタビライジングフィン

 トヨタ86をはじめとする最近のトヨタ車に多くみられるパーツ。水の中を自在に動き回る、魚の形をヒントにしている。

 Cピラー(86の場合)に装着することで、ボディサイドを流れる気流に渦を発生。車体を左右からおさえて、安定性を高める。

 エアロスタビライジングフィンが上下に並んでいる様は、まるで魚がペアで回遊しているよう。スポーツカーだけではなく、プリウスやアクアなど、エコカー用の設定もある。

■カナード(鳥)

STIコンプリートカー、S209(北米のみ発売)のバンパーに装着されているカナード

 主にフロントバンパー左右にペアで装着するパーツ。形状は鳥の羽そのもの。カナード周辺を空気が通過することにより、下向きの力(ダウンフォース)が発生。

 走行中の車体を安定させる効果がある。最近はバンパーにカナード機能をプラスしたバンパー一体型やカナードを上下に配置(左右合計で4つ)したものもある。

 機能パーツとしてはもちろん、エクステリアの印象を手軽に変えるドレスアップパーツとしての人気も高い。

■バードビューナビ(鳥)

日産純正ナビのバードビュー画面

 鳥が上空から見た鳥瞰図(ちょうかんず)と同じ視点を再現したカーナビ。

 筆者は日産が最初に実用化したと記憶している。平面のみとは一線を画する、鳥の目から見たような奥行き感のある地図表示方法は衝撃的だった。

 スイッチひとつで表示方法を切り替えられるのもポイント。バードビューナビが発明された1990年代にはバイオミミクリーという言葉がなかったことを考えると(筆者推測)、そのはしりと呼べる存在。鳥の羽以外の部分からインスピレーションを得ていることも注目すべき点。

■ホーンウイング(鹿)

フロントノーズににょきっと生えたような鹿の角のようなホンダF1のホーンウイング

 これも一時期のF1によく見られた空力パーツ。フロントノーズやエアダクトの上部に装着され、空気を整流する。

 正面から見ると2本の角のように見えることから、この名前が付いた。バイオミミクリーの実例にF1の空力パーツが多いのは、F1における技術競争のシビアさを物語っている。

■番外編/イルカペイント(イルカ)

※マンガ上のフィクションです

 かつてビッグコミックスピリッツで連載されていた人気クルママンガ『F‐エフ‐』(著者・六田登)に登場したレーシングカー技術のひとつ。

 天才エンジニアが考案したイルカペイントにより、走行中のフォーミュラカーの表面をイルカの肌のように変化させ、空気抵抗を激減させるというもの(記憶があいまいですいません)。

 当時、『F‐エフ‐』を夢中で読んでいた筆者はあまりに突拍子もない技術に「ありえない感」を感じていたが、冒頭のサメ肌塗装の話を耳にした時、思わずイルカペイントのことを思い出してしまった。

 マンガのなかではすでにバイオミミクリーがレーシングカーに使われていたのである。

 と、ここまで実例を挙げてきたが、自動車業界で活用されているバイオミミクリーは、大きく分けて魚系と鳥系に分けられるようだ。

 自然のなかでたくましく生きる魚と鳥には、クルマの運動性能や利便性を高めるためのヒントがたくさんある。

 次に魚や鳥を見る時には、そんな視点で観察してみるのもおもしろい。

最新号

ベストカー最新号

平成最後の日本自動車大賞|ベストカー 5月10日号

 ベストカーの最新刊が本日発売! 4月1日に元号が「令和」に決定し、いよいよ平成も残りわずかとなる。そこで、最新号では平成最後の日本自動車大賞を決定。  このほか、デビュー直後の日産デイズ&三菱など注目新車の情報も盛りだくさんの内容でお送り…

カタログ