新車購入時に、ふと頭をよぎるのが「値引き」の文字。そもそもクルマは値引きをしてもらって買って良いモノなのだろうか。当たり前に存在しているクルマの値引きは、敬遠されるものではなく、大歓迎ってマジ? クルマの値引きについて、考えていこう。
文:佐々木 亘/画像:Adobestock(トップ写真=PJM@Adobestock)
値引きはクルマの商習慣と考えよ
1台数百万円するクルマを購入する時には、値引きというものが当たり前に存在すると、多くの人は思っているはず。この商習慣は、20年経とうが30年経とうが変わらない。昭和・平成・令和と時代が変わっていく中でも、商習慣として私たちの生活の中に息づいているものなのである。
レクサスのように、全てのお客様へ同じものを同じ価格で提供するという気持ちから、値引きを行わないメーカーもあるが、国内外問わず、ほとんどのメーカー系ディーラーでは、新車販売時に値引きを行う。
車両本体からは5%~10%程度が相場、販売店装着オプションになると20%~30%程度値引きするというケースも往々にして存在するのだ。
そもそも値引くなら、その分値段を下げて皆同じ金額で売ればいいと思う人もいるかもしれないが、長い時間をかけても、そうはなっていないのが現実。
実は新車の値引きには、「お得に変えた」という消費者感情以外にも、売り手がアレを判断する時の大事な要素が含まれていたのだ。
値引きをする=人を知るということ
クルマは、現代社会において数少ない値引き習慣のある商品だ。今はほとんどのものが「メーカー小売り希望価格」で販売されているのだが、クルマには小売り希望価格はあっても実際に売買契約書を結ぶ金額とは異なることが多い。
この一見すると特殊でムダにも思える値引きという慣習で、得をしている人はだれなのだろうか。
消費者側は、値引き交渉上手が安くクルマを変えるから得をしていると思いがちだが、値引き制度を上手く使って、得をしているのはディーラー勤務の営業マンだったりする。
値引き交渉の中で、人は本性を現すことが多い。クルマという買って終わりの商品ではなく、メンテナンスや買い替えといった、購入後も長きにわたるお付き合いのあるサイクル性のある商品だからこそ、売り手は買い手をしっかりと見極めているのだ。
自動車販売現場での営業経験が長い筆者が見るに、昨今の営業マンは、自分が長くお付き合いしても良いなと思えるお客様を選んで、クルマを買ってもらっているように感じる。
特に最近は残価設定ローンの台頭で、何度も同じメーカーのクルマで買い替えが起こるようになっているから、10年・20年スパンで付き合いやすい人を、営業マンが見極めているのだ。
これを見抜くうえで、値引き交渉というのは格好の場。気難しい人、無理難題を吹っ掛ける人、キレやすい人などは、商談の中で値引き交渉に入るとほとんどの場合、その特性を現す。こうしたお客様にクルマを買われないことが、自分の仕事を円滑に回すための、一つのコツでもあるのだ。
営業マン各人には、ある程度の値引き幅が個人裁量権として与えられているから、気持ちよく買ってもらえるお客様を選び抜き、その人に大きな値引きをして成果を上げる。
こういうお客様を10、20……100と増やしていくことによって、場当たり的な新規受注の獲得ではなく、毎月一定の受注が安定してあげられるような、苦しくない営業活動を行うことができるようになるのだ。
こうした点から、値引き交渉は営業マンにとってみると大歓迎なことなのである。粘り腰や無理な相見積もり、強硬策は今日日流行らないし、こうした交渉では大幅値引きは期待できない。
値引き交渉で営業マンに見られているのは、私たちの素の部分。人と人とのお付き合いになるからこそ、気持ちの良い取引を行い、値引きを通して私たちも長くいいお付き合いをできる営業マンを探そうではないか。
単に安く買うだけが、値引きの本質ではないのだ。「値引き」はしていいのだが、自分が多くのお客さんの中から「間引き」はされないようにしておこう。


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