WRCラリー・フィンランドのSSSを、世界に1台しかない水素エンジンを搭載した本格ラリーマシンが本気で攻めた。振動を伴った甲高いサウンドと強烈な加速はラリーマシンそのもので、詰めかけた大勢のギャラリーたちを魅了した!!
※本稿は2025年8月のものです
文:ベストカー編集部/写真:TGR
初出:『ベストカー』2025年9月26日号
WRCラリー・フィンランドに水素エンジンの音が響く
2022年のWRCイープル・ラリー(ベルギー)で、水素エンジンのGRヤリスH2が豊田章男社長(当時)の運転でSSをデモランし、水素への関心が一気に欧州に広がった。
あれから3年、今度はWRCラリー・フィンランドでGRヤリス ラリー2 H2コンセプトが走った。
ラリー2はトップカテゴリーのラリー1の下のカテゴリーだが、勝利のために作られた完全なラリー車だ。
H2コンセプトはリアに気体水素のタンクを2本搭載し、エンジンは市販車ベースの3気筒1.6Lターボを採用する。予想される最高出力はラリー2の規制いっぱいとなる約280ps超だ。
今はSSの全開走行で30kmほどしか走れないが、もちろんドグミッションとなる5速シーケンシャルもGRヤリス ラリー2と同じだ。
今回は多くのギャラリーが見守るなか、レーシングサウンドを轟かせ、強烈な加速で疾走していく。水素をイメージさせる爽やかなボディカラーが新鮮だが、クルマの動きはラリー2そのもので、水素エンジンのポテンシャルを印象付ける。
2022年のイープル・ラリーでの水素エンジンGRヤリスと比べると、見た目も走りもサウンドも圧倒的に迫力がある。
4度の世界チャンピオンになり、WRC23勝のレジェンドドライバー、カンクネン氏も「運転していてとても楽しいし、興奮した。これは完全なラリー車だ」と絶賛した。
WRCフィンランドは、人口15万人のユバスキュラ市近郊で開催される。ラリー期間中は10万人以上がフィンランド内外からやってくるWRC屈指の人気イベントだ。GRヤリス ラリー2 H2コンセプトの走りを見たギャラリーたちの興奮は、まさに本物のラリー車だったから。
ドライブしたカンクネン氏はさらに、「ハンドリングがよく、乗っていてとても楽しいクルマだ。何よりラリーマシンの戦闘力がある。エンジンはラリー2のフルスペックではないものの、私の年齢(66歳)にはちょうどいい」と笑ってインタビューに答えていた。
また『トップギア』でおなじみのリチャード・ハモンド氏はカンクネン氏の隣で体験走行したが、「こりゃ最高だわ! これまで、未来のクルマってどこかダルくて、退屈で、特徴がなくてどっちつかずな存在なんて言われてきてさ。
でも内燃機関は何も傷つけないし、私たちが期待していることを全部備えているんだ。だから放っておくなんてできない。もう身体的にも、感情的にも昂ってしまう。クルマってものを愛しているし、愛さずにはいられないんだよね」と興奮気味に話した。
モリゾウさんのデモランが見たい!
トヨタ自動車は水素に本気だ。国内では豊田章男会長が液体水素エンジンのGRカローラに乗ってスーパー耐久に挑戦。2025年のル・マンではGR LH2 レーシングコンセプトを初披露し、ル・マン24時間レースへ液体水素エンジンハイブリッドスポーツカーでの挑戦を視野に入れている。
水素についてはまだまだ課題が多く、懐疑的な人も多いが、挑戦し続けるうちに少しずつ道が開けていくことに違いない。
豊田章男会長は常日頃「カーボンニュートラル達成に向けた選択肢のひとつとして水素の可能性を拡げていきたい」と語っているが、今回のGRヤリス ラリー2 H2コンセプトのデモランは、水素エンジンで本格的なラリー車を作ることができると証明したことになり、強烈なインパクトを残した。
少なくともデモランを目撃したフィンランドのラリーファンたちは、ラリー車そのものの音や振動、そして速さを目の当たりにして、内燃機関を未来に残すには水素エンジンが一番だと思ったに違いない。
この衝撃を日本でも。ラリージャパンでは豊田章男会長のドライビングによるデモランをぜひ見せてほしい。
余談だが、カンクネン氏に日本ではセリカ復活が大きな話題になっているが、どう思いますか? と聞いたところ、「噂になっていることは知っているよ。私もワクワクしているさ」と教えてくれた。新型セリカに乗るカンクネン氏の姿が、そう遠くない日に見られるかもしれない。












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